道か、道ではないか
このサイトでは、今はほとんど使われない古い道、廃道や道の痕跡に関する報告を主なコンテンツにしている。廃道や道の痕跡は、見た目にほとんど道のように見えず、ただの森のように見えるものも少なくない。ではこのサイトで古道、廃道、道の痕跡としているのは、どのような根拠によっているのか。
それには、大きく分けて次の二点の根拠のいずれもが満たされていることを条件にしている。一点目は、古い地形図、登山地図やガイド、研究書、その他の関連資料が道の存在自体を記録し、かつ位置図もしくは大まかな位置を特定できる文書を記録していることである。二点目は、実際に現地を通行してみて、確かに道の痕跡が確認できることである。山中には古道の他、獣道、作業道、道のように見える自然地形など、様々な道的な存在がある。本サイトでは、この二点が揃った道の痕跡らしきものを、「道」として記載している。実際には、古道、獣道、作業道を完全に区分することは困難である。古道が現在は獣道、作業道として利用されているらしい状況も、しばしば目にするからである。しかし一点目の条件を満たす限り、その位置に道らしきものがあれば、本サイトではそれを古道として報告させて頂いている。
一点目の古地図、古文献、古資料における道の記載に関しては、重要な留意点がある。国土地理院の地形図が道の位置を正確に特定できる精度に達したのは昭和五十年前後だが、地図や資料の殆どはそれ以前に作成されたか、それ以前の情報を元に最新の地形図に落とし込まれたものである。そのため、位置に関しては一定の信頼性しか担保されておらず、参考程度に使用するのが限界である。
二点目の実地での歩行においては、ヤブ、倒木、土砂や砂礫で覆われたり崩壊していたりのような見た目でなく、実際に歩いた足の感触が重要な判断基準になる。たとえ廃道であっても道であれば、道でない部分より明らかに歩きやすい。地面が踏み固められているため安定していて、岩や立木のような大きな障害物、小石・木の根・草や笹のような小さな障害物ともに少ないからである。例えば一見ヤブや倒木に覆われ何も無いように見える森でも、かつて道があった部分と元々道がなかった部分では、歩ける速さが二倍程度は異なってくる。今歩いている廃道らしき部分が本当にそうであるか自信がなければ、わざとその道筋らしい部分のほんの一、二米脇を平行に歩いてみるとよい。道と思っていた部分が正しければ、道を外れることにより足元が不安定になり障害物が増加し、歩みが明らかに遅くなるはずである。ただし経験的に、道が使われなくなって数十年程度ならこの方法で判別できるが、百年近く立つと地面が根本的に流されるか埋もれるかして、自然地形との区別がほぼつかなくなってしまうと感じる。国中で激しい伐採事業が展開された昭和三十年代まで少なくとも使われていた道は判別できるが、昭和初期に見捨てられ仕事道としてすら全く使われていない道はもはや見分けるのが難しくなっている。