破不山林道 【廃径】
破不山歩道は、荒川林道の1342独標南西鞍部の柳小屋への乗越から始まり西破風山に至る、秩父営林署時代の巡視道だ。歩道の傷みが激しいが、代わりの踏跡がある程度ついており、尾根自体は歩きやすい。登りにとれば道迷いの心配がなく、体力さえあれば楽なバリエーションコースである。
なお一般には「破風山」と表記されるが、営林署では山名・林道名とも「破不山」と表記するので、林道名はそれに従った。
● 破風山北尾根1342独標南西コル~北尾根1390M圏
荒川林道が1342独標南西コルで破風山北尾根を乗越している。荒川谷から電光型に登ってくる薄い踏跡があり、入川側にも同様の微かな痕跡があるのだが、もう殆んど見分けが付かなくなっていた。コルの立木のがやや高い位置に、退色して見難い赤の二重テープ巻かれていた。尾根に絡んで登り始めると、最初の小岩峰は右を巻き、林道はすぐ稜線に登っているらしいことが、稜線上の桟橋の残骸から推測された。だが桟橋が傷んでからは、岩稜部を長く右巻きする踏跡ができたらしく、巻道は不明瞭ながらもそれなりに踏まれていた。一方岩稜上には、岩と岩の間を渡した桟橋の残骸が見られ、そのルートも一般登山道に現れる岩場程度の難易度であり容易に通過できた。新道乗越を過ぎ、尾根に出た1350M圏も過ぎてさらに登った。1360M圏の尾根中央に、少し離れて東大演習林のものと思われる二本の黄色いプラ杭が落ちていた。ここが国有林界が柳小屋歩道の尾根に向かって入川へ下り始める地点であろう。尾根のやや右側に獣道にも見える直線的で明瞭な踏跡があったが、尾根の芯の落葉や枯れ枝が溜まった辺りにも薄い痕跡もあり、これが本来の林道なのかも知れない。数分後に昨日付けた目印を見つけた。
⌚ฺ 破風山北尾根1342独標南西コル-(15分)-1390M圏 [2015.5.23]
● 北尾根1390M圏~西破風山
ほぼ尾根上を多少蛇行しながら付けられた道の痕跡が本来の破不山歩道のようだが、もう歩かれてないようで落葉や折れた枝に埋もれていた。代わりに尾根にそって一直線に登る踏跡があり、獣道かヒトの道か分からないが、こちらは多少使われているように見えた。尾根はブナやミズナラの美しい自然林で、多少の枯死して倒れた笹ヤブがあるが通行に支障はなかった。1370M付近から1762独標までは入川側が国有林、荒川側が東大演習林となっているので、境界標の石標やプラ杭が点々と打たれていた。プラ杭脇に寄り添うように、しばしば旧型の林班界標らしい角柱が倒れていた。
いつしか針葉樹とシャクナゲの森に替わるが、合いからわず赤プラ杭を追っての踏跡歩行であった。苔が張り付いた時代掛かった旧式の石標の117境界標を見ると、1610M圏で混交林のほぼ平坦な部分を通過した。何とか分かる程度の踏跡で、倒木や枝張りの場所では新たな回避ルートができていた。モミやツガが優勢になる1700M辺りからシャクナゲヤブが煩くなり、稜線を辿れなくなった。踏跡は分散し不明瞭になりつつヤブを右から巻き、1762独標先の1760M圏で再び尾根に乗った。ここからすべて国有林になるので、境界標は見られなくなった。
尾根はほぼ平坦になり倒木と荒廃で道型は不明瞭、歩きやすい所を拾って歩くうち自然と道を追っている感じだった。苔に覆われた大木の倒木が多い緩くきれいな森が続き、シャクナゲが所々に咲いていた。1790M圏は地形図に載らない微妙な高低差の、ツガの大木が点在する苔と木の根に覆われた鞍部になっていた。水たまりがあって、泥が動いていたので何かが住んでいるのだろう。この辺では、低い笹が見られていた。どこでも歩ける踏跡不明なツガの原生林の緩く広い尾根が続いた。苔と倒木に覆われ道型が見えず、下りでは迷いやすいだろう。1850M付近から倒木が増えてきたが、まだ酷くはなかった。振り返ると木々の間から、両神の岩峰、左には雁坂の尾根、右は十文字峠方面らしい尾根が覗いていた。1880M圏の平らなところを過ぎると倒木帯となったが、右からかわす踏跡があった。浅い緑の苔に覆われた雰囲気のいいツガの原生林がいつまでも続く、秩父の美のまさに典型であった。道は常に不明であり、尾根筋を辿ると、自然と気配や痕跡が目に入るという感じだった。
2000M辺りで倒木が少し減って、再び踏跡が見え始めた。苔に覆われた桟橋を見ると、2010M圏はほぼ平坦だった。2020M圏にこの尾根では珍しく苔蒸した三角形の岩があり、踏跡はその右を抜けていた。ヤブや倒木の少ない落ち着いた森を快適に進み、2040M付近の倒木は右からかわした。2053独標付近の平地は、古い倒木と苔の絨毯が覆う素敵な原生林だった。道は見えず気配程度だった。昨日降った直径5mm程のひょうが残雪のように、あちこちの窪みにたまっていた。2070M付近の尾根が丸くなった辺りの倒木帯は、踏跡が見つけにくく、しばし倒木漕ぎをする羽目になった。尾根が瘠せ、2100M圏は緩い上下を繰り返した。通過に苦労しない程度の倒木が散在し、どこでも歩けるので踏跡は不明瞭だった。
2110M付近から最後の登りにかかった。コメツガの幼木がヤブのように蔓延り、踏跡はその隙間を縫って続くが大変歩き難かった。残雪が少し見え始め、積ったひょうと合さって白いアクセントとなっていた。道に桟橋が頻繁に現れてきて、ヤブっぽい尾根筋の左を絡むようになった。倒木やヤブ的な幼木のため林道は判別しにくく、時々見られる折り返しのところで迷いやすかった。中にはまだ渡れる桟橋もあった。枝の張り出し処理後の切口が分かるところもあり、道型は断続的ではあるが、明確に林道を意識できるようになった。ただし林道のルートファインディングを嫌ってか、稜線の踏跡も使われているようだった。
ツガ幼木のヤブが酷く、道をわざと外れて倒木帯に逃げたりすることもあった。尾根のだいぶ左下を通り、電光型に高度を上げ、2200M圏でいったん尾根に乗った。林道はかなり不明瞭で途切れ途切れだが、桟橋の残骸の置かれ方から、この道筋が推定された。何本もの丸太を直列に繋いだ20M程の長い桟橋も残っていた。また左にトラバースしながら登り、尾根が丸くなる2230M辺りからは折り返しを交えてぐんぐん登って行った。山頂直下は土がほぼ見えず、厚いフカフカの緑の苔の絨毯に覆われていた。その分道型は殆ど分からず気配程度であった。目の前の傾斜がなくなり明るくなると、不意に国境縦走路に飛び出した。道標があり、今来た方は「破不山歩道通行止」と表示されていた。左に数十メートル行くと、西破風山の山名板があった。
⌚ฺ 1390M圏-(1時間45分)-2053独標-(55分)-西破風山 [2015.5.22]