滝川林道 【廃径】
かつての幹線林道は、雁峠と釣橋小屋の間で二ヶ所で寸断され、全く使えなくなった。便利な道だっただけに、大変残念だ。崩壊による径路変更と旧版地形図の不正確さが重なり、経路が分かり難い道でもある。
● パイロット道路終点~釣橋小屋跡
豆焼橋脇から車の通行が難しいほどに荒れてしまったパイロット道路(車道)を辿り、その終点から雁坂峠に至る黒岩尾根登山道に入った。昔の滝川林道は軌道終点付近の豆焼沢出合から八丁坂を登ってここに達していた。一般向け登山道の黒岩尾根道を5分ほど進むと道標があり、滝川林道はここを登らず水平に進んでいる。右岸道と同じく左岸の滝川林道も、ここ数年で少しずつ倒木や崩壊が増えている印象だった。それをいちいち巻くため距離が延びてしまう。一方、釣橋小屋まではマーキングが明らかに増えており、以前ほど迷いやすくなくなった感じも受けた。
急傾斜で滝川に落ちる自然林の斜面を、片足分に多少余裕を持たせた程度の細い踏跡が、ほぼ水平に続いていた。初めの倒れた鳥獣保護区の看板は、ともすると気付ないうちに通り過ぎ、次の保護区看板でドブの白岩で滝川を渡る八百尾根への踏跡を左に分けた。さらに二、三分のトラロープがついた崩壊気味の斜面を抜けると、50Mほど急に下って新蔵小屋沢を渡った。コースでも指折りの水場である。次の荒れた涸窪はトラロープで約10M下って渡り、対岸を徐々に登り返した。保護区看板の小尾根を越えると再び下り、一人二人なら微妙にハングした岩陰で雨宿りできそうな火打石の巨岩の下を通過した。やがて標高約1080Mまで下って、小流の火打石沢を通過した。直後の礫崩壊帯は、踏跡が不明瞭になりマーキングが複数経路に分れているが、以前よりマーキング増え分かりやすくなっていた。見事な自然林を眺めながら、徐々に登って高度を回復するが、水平道と思って歩いていると意外に苦しく感じる辺りだった。次の保護区看板で林道は折り返して登っていたが、まっすぐ進む踏跡やマーキングもあり注意を要するポイントだった。
1218独標下の1180M圏で顕著な尾根を回った。東大演習林が終わり国有林に入る境界であり、見出し標や営林署の標識があり、山中にしてはかなり派手な火の用心の看板が設置されていた。なおも登って1200M圏の尾根南面の小屋でも建てられそうな平坦地に達すると、林道は約200Mを急降下した。一日の行動を終えて逆コースで通る時は、苦しい箇所である。まず崩壊気味の土の斜面を足跡をなぞるように小刻みに折り返して下り、次に歩き難く踏跡が不明な中礫の斜面を斜めに下った。トラバースする踏跡を見落とさないようにして、一つ向こうの窪に移った。マーキングもあるので、よく注意していれば問題ない。隣の窪は大部分が中礫に覆われていてほとんど踏跡がつかず、それらしい痕跡やマーキングを頼りに下ることもできるが、左の岩壁の下に僅かに見える土の部分を下る踏跡から下った。本来の道がどこにあったか知る由もないが、現在は人それぞれ歩きやすいところを通っているようだった。
滝川を目前にして左岸を水平に行く道型が見えたが、釣橋が渡れなくなっているため、そのまま河原まで下りた。両岸が岸壁に挟まれた、地の底のような場所であった。平水時、渡るのに微妙な水量であり、飛び石で渡った時も渡渉した時もあった。今回ちょっと迷ったが、好天が続いて石がよく乾燥しており、手頃な場所があったので川中の石まで飛んでみた。ところが足を着いた瞬間、ぬめりが残っており予想外に滑るのであった。そのまま淵まで滑り落ち、朝から早々にひと泳ぎすることになった。実際天気もよく、気持ち良い水浴びであったのは良かったが、カメラが水没し写真が撮れなくなったのは残念であった。水面から10Mほど上の左岸、林野庁の測量によると標高1021.8Mの小平地にある釣橋小屋は、柱や床が崩壊していたが屋根の構造がほぼ残っており、ブルーシートで補強しながら屋根をテントに見立てて使われているようだった。そうはいっても、廃材のような小屋の残骸に囲まれながら辛うじて1~2名がビバーク可能という、宿泊に使える状態ではなかった。対岸から小屋に渡ってくる釣橋も、ワイヤーは繋がっているが踏板が壊れたりぶら下がったりしている状態で、歩けたものではない様子だった。
⌚ฺ パイロット道路終点-(1時間10分)-釣橋小屋跡 [2015.5.10]
● 釣橋小屋跡~1270独標南鞍部崩壊先
かつて宿泊できた釣橋小屋は単なる物置と化しており、扉はなく中は汚い。屋根つきの資材置き場といった感じだ。右岸に続く林道は、遡上してきた入渓者が利用するためか、枝沢(熊穴沢)出合までは明瞭だ。枝沢出合は開けており枝沢の水量も少ないので、登山靴で簡単に渡渉できる。
目の前に壁のように立ちはだかる通り尾根の末端への取り付きを探す。とりあえず滝川側を少し歩くが、登山道といえるほどしっかりした形跡はなかった。枝沢左岸を少し行くと、右に入る踏跡があった。明瞭な道型が、腐りかけた桟橋の上を渡って、通り尾根の上へと続いていた。(取付付近のみ2015.5.10記録)
歩き出しは予想以上に道が良く、この時点では期待が持てた。尾根が急速に高度を上げるので、緩く登る林道は、枝沢側をトラバースするようになる。数分後には、さっそく通過がかなり危険な崩壊地が現れる。微かな踏跡が、崩壊地の手前側をジグザグに登っている。国有林の巡視道でもあるので、秩父営林署員の物だろうか。実際そこしか経路がないため、踏跡を追う。崩壊部分は極めて不明瞭であり、ベストと思うルートを取って進むとたまたま踏跡がついてくる、といった感じだ。
林道はいったん尾根に乗るが、再び枝沢側に逸れていく。「ときどき枝沢側に入り込んで300登り」とする古いガイド(「奥秩父」(S17朋文堂、原全教著))の通りだ。小崩壊をかわしながら進み、1270Mから東進する小尾根に達するとそれを登り、1270Mの小ピークに到着する。地形図の印象とは違い、特徴のない緩やかな突起だ。ここで左折する形になる。
1230M圏の鞍部まで下りになるが、稜線は岩がちなため、滝川側をトラバースしているようだ。かなり不明瞭であり、かつ枝沢側にも歩いた形跡があり、正確なルートは判断がつかない。ゴツゴツした稜線で鞍部の位置も確実に特定しにくいが、それらしき場所で林道は尾根上に乗り、枝沢側の足元が切れ落ちた大木を抱えながらの緊張するトラバースで抜ける。大木に打たれた錆びた古い杭(尾根上で気づいた唯一の人工的な残置物)は、登山者が手がかりとしたものだろうか。踏跡は、崩れてナイフリッジ的な岩混じりの枝沢側斜面に続き、崩壊で生じた泥壁の窪みの様な甘いスタンスに手足を突っ込み、張り付くように数Mを登って岩勝ちな稜線上に抜けた。この僅かな区間は摩擦の利かせ方とバランスとが非常に難しく、後日下って来たとき、下り方向は一歩ごとに大きな重力が掛かってスリップの危険が増し、通過を諦めた箇所である。下降するならザイルが欲しいが、道具を持ち出すならもはや林道歩きでなく登攀である。
⌚ฺ 釣橋小屋跡-(45分)-1270独標南鞍部崩壊先 [2011.6.15]
● 1270独標南鞍部崩壊先~1477独標南鞍部
ブドウ沢側、続いて枝沢側の狭い踏跡を慎重に通過する。特に枝沢側の崩壊上部は、立木も岩もない縦壁が、沢へと落ち込んでいる。1270M圏で、傾斜が急になるのと共に、ナイフリッジが多少曖昧になる。いくつかの踏跡が岩稜を避けつつ登っているが、枝沢側の傾斜のきつい広葉樹の森を折り返して登る踏跡が、何となくそれらしい。一方稜線の踏跡は、シャクナゲやコメツガが茂る中を縫って登っている。
メインの踏跡がどれか定かでないが、一度尾根筋に乗るようだ。何気なく通過する1380M圏は、尾根が均等に左右に分かれているので、下りの場合要注意だ。1400M付近で、3年前にブドウ沢へ降りたとき入った踏跡が右に分かれるが、今回下りながら見てきたいろいろな踏跡に比べるとあまり顕著でない。もしブドウ沢に入るなら、101空中図根点から入る旧雁峠歩道を使う方が良い。
尾根の踏跡が弱まるとまた左の広葉樹の方に逸れていく。枯れかかって元気がない笹ヤブの中で、踏跡は多少曖昧になって混乱し、やがて明瞭な一筋のトラバース道になる。正規道に出たようだ。よく見るとその地点で正規道は折り返して高度を下げているが、折り返しの先はヤブの中に消えかかっている。笹が元気だった頃、手入れが悪く消えかかった正規道を捨て、尾根を行く踏跡ができたものと想像される。
道は尾根の枝沢側の背の高い笹原を、一直線に緩く登る。朽ちた桟橋、意外と新しく見える張り出した枝の切り落とし面、などが見られる。
枝沢側からちょっと見ると峠越えのような形で、雁峠歩道は稜線をブドウ沢側に乗り越している。ここに「秩空一〇一」と記された101空中図根点の石標があり、秩父営林署設置の朽ちて読めない道標が落ちている。
⌚ฺ 1270独標南鞍部崩壊先-(35分)-1477独標南鞍部 [2014.5.17]
● 1477独標南鞍部~ブドウ沢1360M圏右岸支窪先
通り尾根1479Mの101空中図根点には、営林署の古道標があり、枝沢側を登ってきた道がブドウ沢側に乗越している。そこからブドウ沢側の水平道を辿る。初めの200Mはそこそこ歩きやすく、このまま行けるのではと期待させる。しかし小尾根を過ぎると、急に笹薮がまともに歩けないほど酷くなる。強引に分け進むと、その先の窪の大崩壊で道が消滅し途切れていた。
この先しばらく手がつけられぬ崩壊続くことを、別の日に100M程下方のトラバースを試みたり、ブドウ沢を遡行して観察して確認している。崩壊が一段落し道が復活するのは、ブドウ沢1360M圏右岸支窪の先、ブドウ沢が逆くの字を描いて大きく屈曲する辺りであり、そこまでは、通り尾根道を登って1770M圏から水平踏跡に入り、さらに支尾根の踏跡を下ってブドウ沢1440M圏右岸支沢出合に下るか(約1時間半)、またはうまくブドウ沢に下って遡行して達する(約1時間)しかない。
(補綴)
後日、この区間を知人のクライマーが突破したと聞いた(→記録1, 記録2)。道の痕跡はあったようだが、もし私のような一般登山家がチャレンジしたら命がけになったことだろう。
⌚ฺ 1477独標南鞍部-(通行不能)-ブドウ沢1360M圏右岸支窪先 [2014.5.17]
● ブドウ沢1360M圏右岸支窪先~雁峠
1380M圏右岸に台地状の地形があり、立ち木に打ち付けた秩父営林署の古い道標がある。ペンキ書きの「~へ」、「km」の文字は見えるが、行き先は消えてしまっている。ここが途切れた林道の再出発点である。このルートは崩壊のため付け変えられた新道と思われるが、新たな崩壊によりそれも通行不能となってしまったのである。
この先、地形図では両岸が崖記号になっているが、谷は開けて穏やかになり、やや広い河原のようになっている。沢沿いの右岸道は、微細な地形に応じて明瞭になったり消えたりを繰り返す。流れは穏やかで、苔むした森の雰囲気も素敵なところだ。1440M圏で、黒槐ノ頭からくる大きな支沢が右岸から入る。1480M圏では、両岸から涸沢が入る。ここで左から下ってくる通り尾根からの踏跡を合わせる。後日捜索した限りでは、林道開設当時の旧道も、通り尾根からの踏跡に合してここで合わさっていたようだ。
道は依然として、不明瞭に現れたり消えたりするが、一貫して右岸を進んでいる。原全教は、右岸・左岸を行き来するとしているが、新道になって固定されたようだ。記述によれば、当時はこの付近の沢沿いに小屋や廃屋があったようだ。逆にこの先、原の記述にない車道跡や飯場跡が現れる。後の時代の開発で、若干様子が変わったようだ。
1530M圏二股で、再び木に打ち付けられた秩父営林署の道標を見る。やはり行き先は消えている。角度の浅いV字型の二股で、右股が本流、左股は涸れている。踏跡は道標の先で乱れ、左股の右岸と左岸とに別れ、結局左股左岸に統合されている雰囲気だ。左股左岸を1分ほど行くと、古い刈払いの明瞭な道になる。ここで本流と離れるのか不思議な気がしつつも進むと、だんだん怪しくなってきて、数分でほぼ消えてしまう。左股には細い水流が現れ、いくつもの滝をかけながら笠取山に向かっている。途中で右に登る踏跡を見ていたので、刈払い道まで戻ってみる。落ちていた板切れを何気なく拾ってみると、倒れて裏返しになった道標の板だった。作りが良かったのか、今でもはっきり「雁峠方面」と読める。隣にある腐った丸太が、その板を設置した支柱だったのだろう。一応見える向きにして、斜面に立てかけておいた。つまり、左股に少し入ったところまでは、正しいということだ。
まず右股を捜索したが、道はなく、いくつか滝がかかっている。次に中間尾根を捜索すると、シャクナゲのヤブのなかに明瞭な道が付いている。滝場を避けるため、いったん左股に入り、すぐ右股(本流)・左股の中間尾根に上がるのがルートだと判断した。後知恵だが、原の著書にも「左の割れた沢に入り、じきまた本沢との間の堤のような小尾根を越して本沢に下り」と書いてあった。
この堤のような小尾根から本流に下る踏跡が笹の中に何箇所もついているが、どれでもいけそうな感じだ。1620M付近は一時傾斜がきつく沢幅が狭まり、意外にも再び滝が続くので、避けるようにかなり水線を離れた笹の中の適当な踏跡を広っていく。
やがて谷の形状や斜面の傾斜はいよいよ緩くなり、どこでも歩ける状態になる。1670M付近で水流はいくつかに分かれるが、地形的な不明瞭さからどちらに進むか迷ってしまう。幸い谷は開けてある程度見通しが効き、雁峠の稜線の大きく抉れが見えるので、その形状を見て方向を判断する。またこれより先、車道(林道)の痕跡があちこちに見られるが、水が流れ草が生えてほとんど自然に帰しており、どこでどう繋がっているのか分からなくなっているので、役には立たない。
木が少ないため明るい、まるで笹が進出した湿原のような平地を、痕跡を適当に拾いながら進むと、1720Mで飯場跡に出る。整地された空き地の周りに流し台、酒瓶、割れたつぼが散らばり、丸木橋の痕跡も発見できる。流れはかなり細いので歩行者には必要なく、これも車道の残骸だろう。
飯場跡からは、かなり明瞭な車道跡が北へと続いている。雁峠にかけて多くの林道の痕跡が認められるのは、数十年前の開発時の林道網の痕跡だろうか。「アルパインガイド35奥秩父・大菩薩連嶺」(S48・山と渓谷社)には、柳沢峠から伸びる笠取林道(現在は廃林道、歩行者は可)が、「笠取小屋の横を通って奥秩父主脈を横切り、雁峠と笠取山の間を埼玉県側に少し下ったところまで延びている。」と記されている。
最後は、踏跡も不明瞭なだだっ広い笹の谷を雁峠のクビレの方向に一直線に登っていく。直前で明瞭な車道跡を横切ると、案内板や休憩施設が林立する雁峠だ。
⌚ฺ ブドウ沢1360M圏右岸支窪先-(1時間20分)-雁峠 [2011.6.15]
【林道途中へのアクセスルート】(確認済みのもの)
- 通り尾根道と1477独標南で接続
- 通り尾根道の支尾根踏跡と1440M圏右岸支沢出合付近で連絡