日留賀岳(土平道) 【藪径・雪径】

 日留賀岳に南東稜(小蛇尾川右岸尾根)から登るヤブ道で、登山口は旧塩那道路の1020M峠状地点、すなわち小蛇尾川が1081独標付近の右岸尾根に最も食い込んだ辺りの塩那道路が右岸尾根に一瞬乗り上げた地点である。その峠状地点から、塩原から来る日留賀嶽神社参道に合流する1750M地点まで微かな踏み分け道が続いている。

 尾根上に付けられた踏跡は、痩せた笹尾根では多少明瞭だが、少しでも尾根が広がったり下草のない部分ではかなり曖昧になり部分的には消滅する。腰から胸の笹が覆う辺りは、一直線に登る踏跡は一応見えているが刈払がないためしばしば曖昧になる。とは言え全般にヤブの薄い尾根なので、地図読みすればバリエーションレベルの登山者にとって容易であり、日留賀岳への最短コースである。訪問時は標高1575~1750Mの多くの部分で道が雪に隠れていたので、道の状態を全区間を完全に確認した訳では無いが、一部露出していた部分の観察を踏まえれば全区間で通行容易と予想できる。鹿が何頭も徘徊していたので当初鹿道かと思ったが、断続的ながらも複雑な尾根地形を正確に読んで真っしぐらに山頂を目指しており、平坦で下草のない部分で薄くなりほぼ消滅することから、人が付けた踏み分け道と見られる。この尾根は旧大田原営林署の那須担当区と中塩原担当区の境界尾根でもあり、かつて巡視に使われた道だったのかも知れない。登山口の1020M峠状地点へは、栃木県道266号土平(ドダイラ)園地駐車場から1時間強でアクセスできる。

 

●土平園地駐車場~塩那道路1020M峠状

 塩那道路(栃木県道266号線)の山岳区間は一般開放されないまま公式には廃道となり、塩原側からは土平園地駐車場先に厳重なゲートが設置されている。大書きされた「全面通行止」表示に迫る大きさで「歩行者も入れません」と書いてあり感じ悪い。ゲートの高巻きは容易だが、不愉快なので土平園地歩道から入山した。距離にして三、四百米遠回りになるが、1分でも急ぐのでなければ短い区間だが気持ちよく歩ける。入口看板に図示された園地歩道の右端のルートは送電線巡視路と国有林巡視道を兼ねていて、これを辿り塩原線10号を経て11号鉄塔に向かう。鉄塔付近からは右側の緩いカラマツ植林を適当に抜けて塩那道路に下ると良い。実は1020M峠状まで、眼前のピークを右、その後は常に左を巻いて行く大田原営林署(現塩那森林管理署)の国有林歩道があるはずで、それを行こうと探したが、一見して分からぬほどに荒廃もしくは消滅したしまったようで、結局塩那道路に下りることにした。

 塩那道路はいったん1099Mの駐車場から1157Mまで登り再び1020Mまで下る一見無駄な造りになっていて、せっかく稼いだ標高を吐き出した。現状は落石や倒木で関係者も通行できないが路面状態は悪くなく、時々整備を行っているのかも知れない。下りついた1020Mは周辺では尾根の最低鞍部にあたり小蛇尾川とシラン沢を結ぶ峠状の開けた場所だった。小蛇尾川までの標高差は僅か数十米で、昭和35年まで萩平(大蛇尾川との合流)から1020M峠状の直下付近まで9.6Kの小蛇尾森林軌道が通っていたという[1,2]。

 

⌚ฺ  土平園地駐車場-(1時間10分)-塩那道路1020M峠状 [2025.4.17]

 

●塩那道路1020M峠状~1750M塩原口登山道合流~日留賀岳

 広葉樹の下草がなく登りやすい丸みを帯びた尾根に取り付いた。薄い踏跡だが、地形通り登りやすいところを登ればよく迷うほどではなかった。1090Mでいったん緩まるも1110Mまで一気に登ると、左右に尾根が割れた二重山稜となった。取り付きやすく緩やかな左を登ると、この尾根では珍しい平板なヒノキの急斜面が現れ、それを右寄りに斜上する微かな踏跡で登り切り、1205Mの平坦地に出た。ここも弱い二重山稜だがどう登っても問題ない。暫く広がった尾根を登るが、広葉樹と針葉樹が混ざった疎らな森を踏跡通りに登れば良い。訪問日の時点では所々雪が残るも笹がまだ芽吹いていなかったので見通しが良く、道の判別は容易だった。

 快適な登高が暫く続き、1390Mでツガやヒノキなどの黒木に覆われた肩に出た。尾根は次第に痩せてきて高山の雰囲気が現れ、1430Mで雪が初めて尾根上を覆った。まだスパッツは必要ないと、この一帯だけに一時現れたシャクナゲを踏んで雪を避けて進んだ。これまでの楽な登りは次第に本格的─といっても普通の─登りになり、勢力を増してきた左右の笹原に残雪を見ながら調子よく高度を上げた。1575Mで唐突に雪道になった。何故急にと思ったが、地形をよく見ると、それまでの多少痩せ気味の尾根がやや傾斜の緩んで丸みを帯びたものに変わり、雪付きがよくなったためであった。スパッツを付け、針葉樹の疎林を快適に登った。おそらく雪の下は腰から胸のさほど密でない笹原になっていると思われた。というのも、1690M付近で一時傾斜が強まり雪が切れて笹が見える部分があったからである。その部分で道を観察すると、明瞭とは言えないが容易に判別できる踏跡が、笹をかき分け尾根を一直線に駆け上がっていた。積雪のため道型を確認することはできなかったが、1750Mで塩原からの一般登山道(日留賀岳神社参道)に合流したはずである。

 あとは暫く雪稜を登れば石祠のある日留賀岳山頂である。南北に伸びる尾根だからか雪庇は余り発達しておらず、1800M付近の急傾斜で若干壁のように雪が張り出ている他は歩きやすかった。ただし正午過ぎとなった下り出しでは気温が高まり、恐れていた踏み抜きに何度も足を取られた。この一般道区間ではしっかり踏まれていることを期待したがぼやっとした足跡しか見られず通行者が少ないかと思ったが、帰宅後の検索すると四、五日前に複数の登山者の登高が確認され足跡消滅の速さが改めて確認された。

 以下の時計マークは正味の所要時間だが、参考に休憩を含む実記録時間を記す。土平園地駐車場7:24→国有林歩道探索失敗し塩那道路に出る8:30→1020M峠状9:14→日留賀岳11:50~12:22→1020M峠状13:45~14:04→土平園地駐車場15:20。

 

⌚ฺ  塩那道路1020M峠状 - (2時間)-1750M塩原口登山道合流- (20分)-日留賀岳 [2025.4.17]

 

 

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土平園地入口の案内板
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園地内の歩道
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歩きやすい塩那道路
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目指す日留賀岳はまだ遠い
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1020M峠状で正面の尾根に取り付く
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微かに踏まれている
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道は薄いがヤブはなく歩きやすい
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1390Mの黒木に覆われた肩
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笹と残雪を眺めつつ高度を稼ぐ
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1575Mから雪上を行く
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1750Mで塩原口登山道に合流し山頂間近
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気持ち良い雪陵を振り返ると高原山が
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1800Mの壁
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地肌が現れた日留賀岳山頂
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鹿又岳~男鹿岳の稜線と那須連山

[1]林野庁「国有林の森林鉄道の全路線」(https://www.rinya.maff.go.jp/j/kouhou/eizou/attach/pdf/sinrin_tetsudou-79.pdf)、令和初期。
[2]林野庁「国有林森林鉄道路線別概況」(https://www.rinya.maff.go.jp/j/kouhou/eizou/attach/pdf/sinrin_tetsudou-78.pdf)、令和初期。