狼谷

 登攀に適した滝がなく、下降ルートや、登山のバリエーションルートとして利用されている印象だった。渓相は明るく雰囲気がよい。入渓ルートは大洞川の車道を荒沢谷出合まで歩き、さらに荒沢谷を遡行もしくは左岸踏跡を辿って狼谷出合に達するのが普通だ。狼谷出合直前の井戸淵は、うまくルートを見つければ両岸とも高巻ける。

● 狼谷出合~狼平

 出合付近は溜まった倒木を潜って進むが、その先はすっきりと明るい、歩きやすい谷だ。水量は少なく、滝は全て直登できる。2~3Mの小滝が階段状に直線に連続してかかり、高度を稼ぐ。技術力は不要で、アスレチックでもしている気分がする。
 不思議なことに、右岸に踏跡がついている。やや不明瞭な踏跡は、その先も右岸、左岸に渡り返しながら続いていた。知識がなく分からないが、沢沿いの獣道と言うのもあるのだろうか。
 

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狼谷遡行図
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 1220M付近の左カーブで左岸が谷間で崩壊しており、谷は明るい感じになる。1250M二股は変わっていて、左岸の支流がよく見えるが、大きな岩の間から流れ出る本流は、下から見ると目立たない。二股上に出てみると、本流は両岸がゴーロの緩やかな河原になっている。
 沢は続いて、右、左、右の三連続カーブに差し掛かる。ゴルジュになってはおらず、 谷は狭まるが、相変わらず流れは緩やかだ。左カーブの部分に、沢を横断するように生えた大木がある。根っこは左岸にあり、太い幹以外の全ての枝は右岸のはるか上方にある。ミニゴルジュの3M滝を遊びながら登って、1360M二股に出る。
 この先の本流は、緩やかな傾斜に苔むしたゴーロが続く。シオジやサワグルミだろうか、木漏れ日の明るい森は、日本庭園の様でもある。仙波尾根下部に「鹿の楽園」という美しい森があるが、それならここはさしづめ「狼の楽園」だろうか。ただし、そこで実際にピーッと泣き声を発しているのは、幻の存在である狼ではなく、鹿であった。
 美しい風景の中、右から入る支沢に1460M二股かと思うが、それは1430Mの左岸支沢出合である。すぐに1460M二股となるが、驚くべきことに、右股は枯れている。ややこしい事に、この二股の右股側に、地形図にない支沢が中間尾根方向から流入している。
 右股は地形的に明瞭な谷になっていることから、何かの拍子に地下の水流が変わり、中間尾根から流れ出るようになったのかもしれない。とても奇妙な状況であった。
 左股の方が流程はやや長いが、狼平近くに突き上げる右股を詰めるつもりでいたので、その水のない谷を黙々と登ることになった。地形や植生、それに岩の感じからして、最近まで水が流れていた雰囲気で、枯れているのに沢を登っている感じがする。
 一度微量の水が現れた後、再び枯れ、そして二股から18分歩いた1600Mあたりでついに完全な水流が現れた。なにぶん稜線にだいぶ近づいているので、復活したと言ってもそもそも細流である。
 右手に国境稜線が手に取るように見えてくるころ、1826M峰に向かって水流は左に曲がっていく。1650M付近である。笹の中の左岸の窪状地形に、踏跡が登っている。獣道だろうか。稜線は目の前で、一面の笹はヒザ程度と、藪漕ぎもなく楽勝だ。適当に登り、あっという間に1760M付近の平らな国境稜線に出た。稜線上にも笹の中に踏跡がついており、西に辿るとすぐに登山道の通る狼平に出た。

 

⌚ฺ  狼谷出合-(1時間40分)-狼平 [2011.8.15]
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出合付近の狼谷
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小滝が連続する
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滝は高々3m程度
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1360M二股手前のミニゴルジュ状
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1360M上の日本庭園のような風景
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幻想的な森の中の流れになる
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明るい陽差しに包まれた1460M二股
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詰めの右股は涸谷
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水量が復活するもごく僅か
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稜線の笹はヒザ下まで
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ヘリポート用に伐り開かれた狼平