日原雲取道 【廃径】

 日原から雲取山付近に向かう古いワサビ道で、現在は一部が林業や森林管理に使われている。

●日原渓流釣場~オロセー休場

 日原川左岸につけられた歩道の旧日原林道は、現在天祖山尾根末端近くのハタゴヤから奥が歩かれているが、日原・ハタゴヤ間は最近の記録が見られず、あまり歩かれていないようだ。
 旧道は現在の渓流釣場入口(下降点)向かいの、日原ヒュッテ跡がスタートだ。斜面を切り崩して山側に駐車場が造成されていて(資材置き場に転用中)、その脇の法面を登るコンクリートの階段が登山口になる。
 薄暗い杉植林地の登り出しは、夏草に覆われ道型不明瞭だが、やや右寄りの日原側に戻りながら、ジグザグに高度を上げている雰囲気だ。
 高度を30メートルも上げると、ミヤブ岩と呼ばれる大岩に突き当たり、自然とその下を上流方向にトラバースするようになる。このあたりまでくれば踏跡ははっきりし、法面の古い立派な石垣が単なる植林作業道ではないことを物語っている。
 ここからは、植林地の細い踏跡を、点々と連続する岩の基部をトラバースしながら徐々に高度を上げて行く。僅かな水流の水ノ窪を過ぎると、大岩の下に二本杉の大木があるいわくありげな場所を通る。「道の上手に大きな岩があって、老杉がその前に突立っている。」(「奥多摩」田島勝太郎)、という松岩だ。田島は、杉があるのに松岩とは「待つ」が転じたためと述べている。
 次の小尾根を回りこむ地点はやや荒れており、また下部が切れ落ち気味になっている。日原川沿いの採掘現場の真上に当り、古いフェンスやゴムホースなどが残置されている。物を落とさぬようにとの鉱山による注意書きの看板がある。左岸道から分かれて尾根上を登る踏跡は、昔はタワ尾根まで続いていたらしいが、現在は植林地内ですぐ曖昧になっている。
 さらに植林地を水平に進むと、いったん自然林になって、不思議な太い配管が引かれた水のない三又窪を通過する。もしかすると、採掘の邪魔になるので配管の中に水流を通しているのかもしれない。
 道は頼りない踏跡程度のまま続くが、あまり歩かれている感じはしない。ただ、もともと重要な歩道であったためか、たまたま植林や崩壊などの影響がなかった部分では、道型がしっかり残っている。
 ガニ沢の左岸尾根を回りこむところに東屋があり、山側には工事のフェンスがある。ガニ沢右岸が都有地のため、少し手前のこの地点から先、水源巡視道のよい道に変わっている。
 ガニ沢を渡るとき、何かの太いパイプが沢をわたっている。中身は全く分からないが、位置的には、天祖山からの採石の運搬用パイプラインであろうと想像される。
 やがて左下に孫惣谷林道のカーブが見えてくると分岐を迎える。この分岐はあまり明瞭ではなく、この地点から林道のカーブへと下る明瞭な道と、そのまま水平に進む不明瞭な踏跡とに分かれている。左下には東屋が見える。林道に下る道は作業道で、その不明瞭な方の水平道が、旧道らしい。
 踏跡は山側が植林、谷側が自然林の境界についており、植林作業による荒廃や倒木により、道型が不明瞭になるが、概ね林道のすぐ上を水平に進めばよい。分岐から1分の丸く広がったオロセー尾根を回りこむ。
 道型があるようなないような状態で、また旧道なのか単なる植林作業道なのかも分からず、とにかく林道直上の植林地を水平に進んで行くと、すぐに自然林に切り替わる。
 この近くがオロセー休場だったとされるが、車道開通で旧道が消滅し、正確な位置が分からない。孫惣谷を渡る雪隠橋が孫右衛門窪の少し上流(推定840M圏)とされ、オロセー休場まで一登りという。またオロセー尾根を回る地点(850M圏)から休場へも一登りとのことなので、数分進んだ、孫右衛門窪手前の、植林から自然林に変わるあたりかと推定している。

 

⌚ฺ  日原渓流釣場-(55分)-オロセー休場付近 [2012.10.14]

●天祖山分岐~大ブナ別レ

 日原林道旧道は、林道(車道)の開設により歩く者も少なくなり、また幾つかの区間は、工事により物理的に消滅している。天祖山裏参道分岐のオロセー休場までは何とか歩けるが、オロセー休場~雪隠橋までは孫惣谷林道の工事で消滅し、雪隠橋~天祖尾根のハタゴヤは、昭和34年のガイドブックですでに「ほぼ廃道に化してしまった」(「登山地図帖「奥秩父の山と谷」、1959年)とされている。大ブナ別レ~唐松谷にかけても、日原林道新道(車道)に潰されてしまった。しかし今回歩いた天祖山南面部分は、水源巡視道として保存されている。
 八丁橋の先の天祖山登山口から天祖山に向かって標高差320Mを登り、1040M圏まで登った地点の道標の「水源林巡視道」と書かれた道標から天祖山尾根を離れ、旧道に入る。孫惣谷出合から日陰名栗沢出合まで続く日原川の悪場を林道は大きく高巻いているため、この天祖山尾根を離れる地点が本来のこの林道の最高点とあり、大椈別れに向かって基本的に下り道となる(ただし現在は、途中に崩壊の大高巻あり)。
 自然林と植林が交互に抜けて緩く下る道は、ガレた中小屋沢を渡った直後の尾根の100M近い大登となる。初めは九十九折れ、続いて尾根上の不明瞭な踏跡を登り、突如トラバース気味の下りが始まる。登った分を緩く長く下り返し、崩壊地の高巻きが完了する。
 相変わらず、植林と自然林が目まぐるしく変わる。水流のある名栗沢を通過し、大きな上下無しに行く。車道が下を平行して進むようになると、道標のある広く美しい自然林の尾根に出る。ここが大ブナ別レだ。唐松谷へ下る道はすっかり消えている。

 

⌚ฺ  八丁橋-(30分)-天祖山・日原林道旧道分岐-(40分)-大ブナ別レ [2013.10.13]

●大ブナ別レ~二軒小屋分岐(大ダワ林道旧道)

 現在、日原林道(車道)の二軒小屋分岐から始まる大ダワ林道は、かつて大ブナ別レから始まっていた。30秒ほど尾根を登ると、左に水平道が分かれている。すぐに植林地となり、右上に赤石尾根への作業道を分ける。続いて水のない鍛冶小屋窪を通るとき、その左岸を極めて薄い踏跡が登っていくのに気がつく。恐らく天祖尾根の唐松平へと登る旧道だろう。
 直後に微流の窪を通過し、尚も水平に進む。楢平の尾根を回るところにテーブが打ってあるが、明瞭な道型はない。さらにすぐ、トラバースしながら赤石尾根へ向かう作業道を右後方に見送る。ここから道は踏跡程度になる。水源林界の赤石尾根に達すると、尾根上の踏跡と交差する。少し下に、用地境界目標の赤頭の長杭がある。
 この先は水源林外のため、ヤブ、潅木で荒廃し、道型を保つのが難しいほどだが、踏跡は概ね水平に続いている。直下に見える林道を歩く方が遥かに楽だが、一応踏跡を追って、植林、自然林を交互に通過していく。
 林道法面を段差を使って通過すると、植林の中で微流の焼原窪を通過する。林道は、上がって来る踏跡を辿れば、僅か10秒の距離だ。入口にマーキングと何かの看板がある。また、山側の斜面には小さな作業小屋が見えている。
 なおも進むと、また法面を通過する。かなり歩きにくくなってきたので、下る踏跡に入り林道に出た。すぐ先に「ヤマハンノキ」の看板がついたまま切られた木があるあたりだ。3分進んで大ダワ林道の二軒小屋下降点となる。

 

⌚ฺ  大ブナ別レ-(55分)-二軒小屋 [2013.10.13]

【林道途中へのアクセスルート】(確認済みのもの)

  • 車道(孫惣谷林道、オロセー休場付近)
  • 天祖山表参道(ハタゴヤ付近)

 

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杉植林地を行く日原林道旧道
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松岩
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採石場上の旧道のフェンス
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フェンス脇の立札
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パイプが引かれた三又窪
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ガニ沢の輸送管らしい設備
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大ブナ分れの古い道標
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赤石尾根の水源林境界標
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民有林で踏跡は荒廃
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焼原窪の作業小屋