井戸沢道(塩沢)【藪径・雪径】
川沿いに隣り合う二つの集落、塩沢、中双里のどちらにも井戸沢という沢がある。断崖が続く中津川沿いにはかつて安定した道がなく、往来も限られていたためであろうか。ここでいう井戸沢は、塩沢にある方の井戸沢のことである。塩沢は平成6年頃、滝沢ダムに水没のため廃村となり、現在人家はない。ダム周囲の車道から中流部の750M付近まで左岸道があったが、荒廃が酷く危険な状態である。
左岸が埼玉県農林公社の分収林を含む民有林、右岸が東大演習林で、いずれも昭和30年代後半に大規模な伐採を受けている。栃本、塩沢の何れからもアクセスが良く森林の手入れは悪くない。しかし元々谷が急であるうえ、塩沢の廃村、近年の豪雨による土砂災害の影響か、訪問時現在で著しく道の荒廃し、もはや通行不能に近い状態だった。以下は、下り方向で歩いた時の概要である。
● 小滑井戸沢歩道の井戸沢・小滑沢中間尾根1125M付近~井戸沢780M付近
井戸沢・小滑沢中間尾根の1125M付近、境界標やテープが賑やかに打たれた小滑井戸沢歩道の一地点から中間尾根を下り始めた。道があるではないが、緩く平たい尾根は境界で巡視があるためか、ヤブや岩をうまく避ければ割と歩きやすかった。当初は両側が植林だったが、次第に痩せ気味の岩稜になり、植林も消えた。岩がちになってコブが連なる尾根筋を急な登高と下降を繰り返すようになり、麓まで先は長く、安全に通過できるか不安になってきた。
予定していた尾根伝いの下降を中止し、井戸沢側に見えてきた植林に向かって、傾斜50度以上の急斜面を注意深く降下した。何とか植林地上端まで下降すると、一面が枝打ちの残骸となり、スリップの危険がなくなり下降が楽になった。ひたすら下って、780M付近の井戸沢に下り着いた。辺りは両岸が見事な植林であったが、歩道は見られなかった。
● 井戸沢780M付近~塩沢
沢沿いの道はなく、歩きやすそうな右岸を少し下ると750Mの左岸にピンクテープを見たが、道はなかった。だが微かに踏まれた雰囲気が下ってきていたので、それを追うと、 割れた瓶の欠片があり、消えかかった廃道と見られた。沢から20mの高さまで登ると、頭上に造林ワイヤーが見える露岩地を渡されたトラロープを心の支えにしながらへつり、植林地に入った。小さな急傾斜の植林地内の細い作業踏跡は一応歩けたが、分散して主経路が分からなかった。できるだけ強い踏跡で抜けると、すぐまた不明瞭になった。左岸高みの自然林に崩壊して危険な道の痕跡が続くも、滑落の恐れが無視できず諦めた。沢底が695M付近となる部分の左岸である。手前の植林地内を行き交う踏跡の一つを使うと崩壊地をうまく高捲けた。落葉が積もって足元が分からない細い踏跡の微妙な露岩帯を、さほど古くないトラロープに頼って通過した。見た目に5~10年前のものと思われ、それにそぐわぬ悪路の理由は、近年の豪雨で荒廃が進んだためなのかも知れない。次の小植林内の急降下は不明瞭な痕跡が分散して道が分からず、一部で折返しの下りも挟みつつ抜けるようだった。沢から50m以上も高い左岸の崖のような自然林をトラバースし、やや顕著な小尾根に当たった。沢が630M付近で曲折する部分に落ちる小尾根である。
この小尾根を少し下ってから猛烈な急斜面を小さな電光型で下るように見えたが、斜面ごと表土が流失した土砂の上には植生もなく、道は流失し、抜けた黄色い杭が幾つか散らばっている有様だった。物理的に確実に歩いて下れる状況でなかったので、落葉の堆積した場所を目掛けて斜面を滑降した。さらに落葉の詰まった窪状をシリセードで下り、605Mの井戸沢に降り立った。右岸に渡ってすぐの石垣は伐採時代の施設跡だろうか。右岸が険しくなると左岸植林に移り、僅かな作業道痕跡を行くとやがてコンクリート製の導水路が見え、井戸沢左岸尾根に取り付く支線車道に飛び出した。これを右に百数十米下ると、滝沢ダム右岸の車道である。