川浦谷林道 【廃径】

 沿線のほぼ全域に植林地があり、現在も手入れが行われているにも関わらず、険しい地形のため殆んど通行できなくなった珍しい林道。作業用には谷沿いに新たな踏跡が出来、立橋尾根まで延長計画中の秩父林道(作業用車道としては既に開設済)からの作業道もできている。旧林道は、百間橋の崩落、塩地平下の自然林区間の消滅、塩地平から牛首までの消滅により、見る影もない。

 

 林道が歩かれていた昭和44年の貴重な記録を最近入手したので、以下に引用しておく。同年、石井弘らが二度に渡り、牛首から日野まで下っている。
 「ヤセ尾根を通り越したコルが牛首で大久保方面へ行く指導標と、日野方面へ行く指導標が立っている。(大久保方面へは通行困難である)牛首から左へ川浦谷側へ踏み込むとボサのひどい道が続き最初の桟橋である、腐れかゝった桟橋を三ツばかり渡ると源流の岩場地帯に入る。道は危険なところを巧みに巻きながら下ると笹平方面に道が分れ川浦谷の50m位上を平行するようになる。山ドリゼンマイの繁茂する地帯を通り過ぎ二、三の桟橋を渡るとシアン谷と沢又沢の源流に架る百間橋である。その名の通りおよそ200mも桟橋が続く、足下は100m位、左は岩壁である。これを越すと伐採地へ入り、営林小屋の赤い屋根が見えた。」(「低山」49号(低い山を歩く会刊)、p8-9、石井弘)
 「(前略)川浦谷の源流地帯へ踏み込むと原生林にガスが漂い、奥多摩側とガラリと変る。幾つかの腐った桟橋を慎重に渡って植林帯に入ると道は良くなり熊倉山の分岐点に出た。笹の深い道を通って伐採地を通るようになると、右下に悪場で有名な川浦谷の七ツ滝が見えるが材木で埋まり昔日の面影がない。暫く穏やかな道が続き小高い所へ登ると、下って来た谷筋の紅葉が美しい。「石井さん、これでお終いかい」田中君が不服そうにいう。「まてまて、これから百間橋だよ」程なく息つくひまもなく桟橋が連続する百間橋だ。「女性が一緒でなくて良かった」誰かがいう。これから先はもう難所もなく予定通り3時半に秩父営林署に着いた。」(「低山」54号(低い山を歩く会刊)、p6、石井弘)
 昭和44年といえば、七ツ滝から塩地平付近にかけてを伐採して索道で搬出し、跡地にヒノキやカラマツを植林していた時期である。牛首から塩地平(記録では熊倉山・笹平方面への道─日野水源林道(仮称)─が分岐する地点)まではヤブが酷く桟橋は傷み、すでに荒廃していた様子がわかる。そこからのまだ作業中のため道が良く、後の平成期には崩落しかかって渡ること自体が恐怖であった百間橋は、まだスリルを味わうに留まり実質的な危険はなかったようだ。

● [逆行区間]思案谷橋~日野造林休憩所

 矢印の向きが示すように、この区間は帰りに通ったので逆コースの記録である。
 思案谷橋は崩落のためシアン谷を渡って越し、右手に倒壊小屋を見てなおも林道を2分も進むと、切れ落ちた小沢に掛かる朽ちた木橋、さらに岩壁に掛かる桟橋の残骸が目に入る。百間橋は通行不能になり、断崖が続くため巻道はなく、檜尾根まで標高差200Mを高巻く必要がある。
 倒壊小屋のある岩勝ちな小窪を登る踏跡があるのでそれに入る。傾斜がきつくなると左の植林の小尾根に逃げ、踏跡を繋いで息を切らせて急登する。
 930M圏で尾根が一瞬平坦になると、岩場が終わった先の小窪の上部を渡る踏跡が分かれるので、それを使って植林を北にトラバースし、隣の小尾根に移る。
 その小尾根の先は、深く切れ込んだ岩の窪で全く進めず、植林の小尾根をさらに登り詰める。やがて自然林に変わると主尾根(檜尾根)が見えてきて、急登の末、展望の良い1060M圏の肩状ピークに立つ。ここまで、正しいルート取りなら危険はないが、ひとつ間違うと岩陵帯に迷い込むので気をつけたい。
 ピークから、ピンクテープに従い、朽ちた階段状桟橋の脇を真東に下り始める。すぐに、どこにでもありそうな普通の植林尾根になり、緊張感から開放される。
 900M圏の小岩陵を南から巻き、左の自然林を下る。765Mの大木の切株の地点で、川浦谷林道(歩道)に出合う。左に行くと、道は水平に崖(地形図の岩記号)の下を通過し、沢又沢に近づいてきた頃、廃材を積み上げたバリケードにより、下方の細い踏跡に誘導される。
 踏跡は、植林中を斜行したり電光型に下ったりして高度を下げる。油断すると道を失うほど、頼りない踏跡だ。最後は秩父林道と併走するように進み、「水源かん養林」の看板脇で秩父林道に出る。数分も下ると、造林休憩所だ。(最近開設された中川林道が檜尾根末端を通過するため、地形や道の様子が変化したと思われる点、ご承知置き頂きたい。2016.11.20)
 なお、林道の道筋に関係なく思案谷橋へ入る場合は、川浦谷を遡行してシアン谷に入り、途中からシアン谷右岸尾根に取り付く方が早い。

 

⌚ฺ  思案谷橋-(30分)-檜尾根1070M付近-(35分)-日野造林休憩所 [2012.9.16]

●牛首~大久保水源林道合流点

 川浦谷林道は牛首を乗越し、大久保水源林道まで続いている。一見存在が分からないほどだが、何とか踏跡が続いている。
 牛首から下り気味に東進し、次の谷で折り返して牛首の真下あたりまで戻り、また折り返す。下に車道(天目山林道)が見え隠れすると、すぐ大久保水源林道に合流する。微かな踏跡程度の不明瞭さなので、合流点の判断に気を使う。

 

⌚ฺ  牛首-(20分)-大久保水源林道合流点 [2012.9.9]

●左岸道分岐~塩地平

 歩きやすい左岸道から、廃道同然の林道が分岐する地点は、矢岳方面分岐の少し先、植林の尾根を回り込み、植林が終わり自然林となる境界の小窪の左岸である。よく見ると、古く目立たない赤テープが下がっている。
 小窪左岸の植林地を登るが、倒木で荒廃し踏跡は途切れ途切れだ。高度差で約100M登ったころ、小窪を渡る踏跡が見つかるので、それに入る。右岸に炭焼釜跡がある踏跡ではなく、小窪右岸の岩場を上から越える踏跡がそれだ。
 小窪をトラバースすると、踏跡はゆるく登って行くが、それは林道ではない。この踏跡はかなり登った後、岩陵帯を縫うようなやや危ういトラバースが続き、最終的には正しい林道に出た。正規ルート確認のため再度引き返したため、1時間を無駄にしてしまった。
 正しい林道は、小窪を渡った後、すぐに歩いた形跡程度に弱まり、ほぼ消滅してしまう。自然林を水平に移動する、幾筋もの微かな痕跡を拾って数分くらい進むと、ヒノキが百本程度固まった、岩陰の小さな植林地に出る。これが重要なポイントだ。この小植林地で、道が復活する。
 植林地内の微細な窪を1分登ると、大岩壁に出る。道はその基部をトラバースしている。次に自然林を緩く登り気味にトラバースし、再び大き目の植林地に入る。これも水平に抜けると、いったん植林が切れて自然林の中の、落ちた桟橋の小窪を渡る。
 再び植林に入ると、つづら折れの登りとなる。ひとしきり登ったころ、作業踏跡がいくつも交わり分かりにくくなるが、植林の向かって左端の谷側をトラバース気味に登って行くと、左下の自然林に平地が見える。これが塩地平だろう。そのすぐ先に、地形図にも載っている廃屋となった作業小屋が現れる。
 なお、この区間、地形図の歩道は全く間違っている。

 

⌚ฺ  左岸道分岐-(40分)-塩地平 [2012.9.16]

●塩地平~牛首

 作業小屋の周囲に踏跡や端材・ゴミが散乱し、そのため林道は不明瞭となる。作業小屋奥の真っ暗な植林地のややくぼんだ地形を、幅1~2Mの植林されていない帯状の部分が、西に向かって一直線に伸びている。どうもこれが林道らしい。(付近にはその後、植林作業のマーキングが付いた。2015.7.4現在)
 その帯状部分は、1~2分緩く登った後の平坦地で左に折れ、川浦谷本谷の左岸近くに出る。ここからやや明瞭になり、左岸の植林内を進んでいる。
 道は酉谷山に突き上げる伏流となった本谷を渡り、緩い傾斜でトラバース気味に登って行く。踏跡程度の林道は、自然林をほぼ等高に進み、小礫の崩壊地を渡り、酉谷峠に向かうほぼ水のない支沢を渡る。
 なお自然林を進むが、踏跡は非常に薄い。あまり高度を上げぬよう気をつけて進むと、踏跡は小崩壊で消える。これを高巻くと、小尾根のカラマツ植林地に入るが、踏跡の続きは、下方のヒノキ植林との境についていた。
 カラマツ植林内で明瞭な踏跡は、トラバースしながら自然林に入ると薄くなり、次の小尾根カラマツ植林でまた明瞭になり、自然林に移るとまた薄くなる。
 一時、枯死笹ヤブ通過時に明瞭になるが、概して微妙にのぼり気味にトラバースする薄い踏跡が続いている。川浦谷の牛首に突き上げる左俣の、1320M二俣の右俣を通過する部分で踏跡はほぼ消滅する。
 そのすぐ先の岩勝ちな小窪の通過時に、朽ちた階段状桟橋がある。これを通過した後の林道が全く分からず、広範囲に捜索したが、結果的には、ほぼ水平に進むのが正しい。林道はほぼ自然に返った状態だが、この近辺ではところどころに、桟橋の残骸である釘を打ちつけた朽ちた丸太が二本平行に配置されているのを見かけるので、それで正しいルートであることを確認できる。
 続いて牛首へ突き上げる源流を通過するが、ここも道型は痕跡程度で、ほぼ消滅している。以前の遡行時に、この辺を林道が通過しているはずとの予備知識があったのでこの痕跡に気づいてはいたが、まさか林道の残骸とは思わなかったほど微かなものだ。
 この先一時的に、相変わらずトラバース気味に進む踏跡がややはっきりする。すぐ露岩帯に行き当たり、折り返している。すぐに倒木帯に入り道型不明となるが、どうもつづら折れに登っているようだ。その後踏跡は、谷の右岸方向へどんどんトラバース気味に登り、牛首直下で、急速に高度を上げてきた谷にほぼ追いつかれ、右岸を再度小刻みなジグザグで登る。ここも遡行時に、妙な踏跡があると気がついた部分だ。
 いったんトラバース気味に立橋方向に登り、折り返して牛首へと戻ってくる。厳密には牛首をわずかに南に通り越し、再度北に折り返すこと約10Mで牛首に到着する。
 この最後の10Mの部分だけは良い道だが、間違えても覚悟なしにうかつに踏み入らぬ方がよい。

 

⌚ฺ  塩地平-(1時間30分)-牛首 [2012.9.16]

●牛首~大久保水源林道合流点

 川浦谷林道は牛首を乗越し、大久保水源林道まで続いている。一見存在が分からないほどだが、何とか踏跡が続いている。
 牛首から下り気味に東進し、次の谷で折り返して牛首の真下あたりまで戻り、また折り返す。下に車道(天目山林道)が見え隠れすると、すぐ大久保水源林道に合流する。微かな踏跡程度の不明瞭さなので、合流点の判断に気を使う。

 

⌚ฺ  牛首-(20分)-大久保水源林道合流点 [2012.9.9]

【林道途中へのアクセスルート】(確認済みのもの)

  • 川浦谷からシアン谷右岸尾根を登る踏跡
  • 矢岳山稜の踏跡(牛首)

 

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秩父林道の川浦谷林道入口
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かつて百間橋があった通行不能の断崖
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朽ちた思案谷橋
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シアン谷の廃小屋
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シアン谷左岸のこの廃桟橋で撤退
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シアン谷出合
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川浦谷林道、良い部分
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川浦谷林道、細い部分
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小黒ノ沢横断点
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川浦谷林道と左岸道の分岐
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判然としない林道の道型
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チェックポイントの小植林地
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大岩壁下の通過部分
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危険で渡れない林道の桟橋
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塩地平付近
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塩地平先の廃小屋
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道型がはっきりしている部分
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本谷を渡る
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緑はきれいだが道型は薄い
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倒木や崩壊で寸断されてもとにかく水平に
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朽ちた階段状桟橋が掛かる岩の小窪
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道型が消えた山中の桟橋残骸
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牛首へ突き上げる左俣の横断点
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牛首から下り出す林道