土室川本沢

 土室川軌道終点の戸沢との二俣が遡行の視点となる。田島勝太郎、岩科小一郎は「大沢」、岡田龍雄はで「土室沢本沢」と呼んでいる。周囲が自然林で谷が直線的で広く、垂直に落ちる滝やゴルジュが非常に少ない。あくまでも明るい雰囲気の沢だ。

● 880M圏二俣(戸沢出合)~牛ノ寝・玉蝶山下

 アプローチが不便で、車道(土室日川林道)は歩行者も通行禁止のため、葛野川ダム下から右岸道を辿るか、牛ノ寝越で入渓する。
 本沢に入ると、沢沿いに踏跡が現れては消える。沢岸の歩きやすい部分では踏跡があり、岩が迫り滝となる部分では消えるという、なんとも都合のよい(?)踏跡だ。時々落ちている林業用のワイヤーや、人工的な整地があることから、人の行き来の多い沢だったようだ。きっとタマナコ沢の作業道と同じく、遡行しながら歩くスタイルの道だったのだろう。古い仕事道によくあるパターンだ。
 楽な河原歩きのうちに、約30分で玉蝶沢出合に着いた。牛ノ寝の反対側の沢と同名の沢だ。ここまで順調に進んでいるので、エスケープせず尚も沢を詰めることにする。
 約10分進むと、1060M付近で2段15M滝に出合った。遡行開始後、40分で初めての滝らしい滝、さすが静流で名高い土室川だ。滝は厳密には2条になっていて、左は涸れかかったチョロチョロ滝だ。谷の両岸は切り立っているので、2条の真ん中の岩を登るしかない。簡単に登れそうだが、遡行記録のない沢なので慎重に地形を観察する。問題なさそうなので真ん中の岩から一段目を登ったところ、二段目は傾斜が緩く滝中を直登できる。さっそく水に入りジャブジャブと登る。
 これを皮切りに、滝が連続する。全て高さ数メートルの傾斜の緩い滝で、ナメありナメっぽいが少しゴツゴツした岩ありで、陽の光のもと白く輝く水流を、次々と直登していく。こんなに気軽でしかも楽しめる遡行があるのだろうか。
 1150Mあたりから沢の傾斜が強まり、緩い滝が数十メートル連続するようになる。日本庭園のような美しい光景だ。15Mのナメ、9M二段緩傾斜滝、30M多段ナメ、20M多段ナメと緩傾斜滝、30~40M多段緩傾斜滝と続く様は、壮観だ。
 20分あまり続いた連瀑帯を抜けると、1300M付近で流れが穏やかになり、水量も減ってくる。右岸・左岸もないほど流れが小さくなり、登山靴で登って問題ないくらいになる。しかも、潅木や倒木が流れに被さる部分が出てきて、快適な遡行という意味ではそろそろ潮時のようだ。
 1350M付近で昼休みを取り、そこで登山靴に履き替えた。尾根に上がれそうなポイントを探しながらさらに沢を詰めていく。
 1400M三股で、真ん中の細い本流に、右岸から微量の水が流れる小沢が、左岸から伏流の窪が合流している。それまで急傾斜だった左岸の牛ノ寝側が開けたので、崩壊の落石で埋まりゴロゴロしたその涸窪に入り、上っていく。
 石の下から水音が聞こえるところがある。本来の水流が埋まり、伏流化しているのだろう。途中にトタン、ビニールシート、酒パックのゴミの落ちている場所があり、ヒトの気配のする窪だ。微かな踏跡らしきものもある。
 崩壊上部に近づくと傾斜が強まり、登るのが難しくなってくる。窪は左右に分かれるが、どちらを取っても結局両者の中間の笹の小尾根に逃げ込むことになる。この小尾根に入ると、おぼろげな踏跡が稜線へと導いてくれる。笹はヒザから腰程度の高さで、邪魔ではない。
 連続する急傾斜を休み休み登ること40分で、1700M圏の玉蝶山直下で牛ノ寝の一般登山道に飛び出した。

 

⌚ฺ  戸沢出合-(30分)-玉蝶沢出合-(1時間)-1400M圏三股12:48-(40分)-玉蝶山下登山道合 [2011.7.3]
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大沢の明るい渓相
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始めは、せいぜいこんな滝だけ
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2段15M。初めてのまともな滝。
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上段は緩く真ん中を登れる(上から見て)
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数メートルのナメ滝が続く
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緩い滝の連続。ジャブジャブ登る
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水遊びのような遡行