中川西谷(夏焼沢)

 ほとんど滝がなく、ウォーターウォーキングといった感じである。車道の中川橋の上流に堰堤が連続するので、下段巡視道が中川を横切る地点(1440M圏)で入渓した。

● 下段巡視道中川渡河点~中休場ノ頭

   平凡な河原を登山靴で進むも滑りやすく、数分後に足回りを沢装備に切り替えた。単なる川歩きで遡行的興味はないが、水流が豊富で、緑に包まれた渓流の美しさに心が洗われる。
 すぐ1480M圏二俣となる。水流は左右に分かれ、右手の東谷は明るくやや水量が多い。これから進む左手の西谷(夏焼沢とも呼ばれる)はうっそうとした森に覆われ、奥多摩的な雰囲気だ。
 西谷に入っても平凡な河原が続く。くの字型の屈曲点を過ぎた1600M圏で、日本名渓釣友会の看板を見る。直後に沢の上空を覆う森が切れて明るくなり、花崗岩の沢床とナメ的なスラブが続くようになる。
 傾斜がきつくなるが、沢全体で平均して斜度が上がるため、相変わらず滝らしい滝が現れず、ナメ滝と呼ぶには一歩不足の斜渓を遡り、高度を稼ぐ。
 流勢は既に弱いが、県境の2020M圏峰から来る西谷本流を追って、1640M圏、1730M圏の分流はいずれも左を取る。水量差が明らかで、迷うことはない。
 1740M圏で5段10M滝に遭遇する。沢に入って初めての目立った滝だ。水量が少なくホールドも多いので、容易に突破する。この滝の上の傾斜が緩んだあたりを、上段歩道(雲取山~雁峠の登山道)が横断するようだ。意外と沢筋が広いうえ、この時点でルート読みに集中していたため、未確認で通過してしまった。
 この先も稜線直下まで、細流が流れる花崗岩のスラブが連続する。幅が10~20Mくらいあり、水流が弱く、ホールドも多いので、難しくはないがそこそこの高度感がある。スラブのちょっとしたくぼみに足を乗せ、小チムニーにワラジを捻じ込み、時には体全体の摩擦力で登る。爽快なアスレチックだ。
 頑張って水流を探しながら登ってきたが、1920M圏で右手からガレが入ると、ついに水深が踝以下となったので、遡行中止とし登山靴に履き替えた。
 なおも沢を辿ると、県境稜線直下でアリ地獄のようなザレとなる。左の尾根に逃げる踏跡を使って、県境2020M圏峰から南東に延びる尾根に乗る。その尾根を3分登って国境稜線の中休場ノ頭に出た。

 

⌚ฺ  下段巡視道中川渡河点-(1時間)-5段10M下(上段巡視道下)-(40分)-中休場ノ頭 [2012.7.29]
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平凡な河原が続く中川西谷
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上段歩道直下の5段10M
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スラブを走る細流
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明るい石の沢床を源流まで登る
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国境稜線2044独標の緑テープ

 

[1]安藤愛次・小島俊郎「土壌の性質と林木の成長(3) シラベの35年生林」(『日本林学会誌』三九巻四号、一三六~一三八頁)、昭和三十二年。
[2]竹内昭「杣口・奥千丈林用軌道」(『トワイライトゾーンMANUAL7』ネコパブリッシング、一六四~一七〇頁)、平成十年。
[3]吉沢一郎「琴川を遡りて奥千丈岳へ」(『山岳』二〇号一巻、一八五~一九二頁)、大正十五年。
[4]小野幸「奥秩父の南部」(『日本山岳会会報 山』八四号、三~四頁)、昭和十四年。
[5]原全教『秩父山塊』三省堂、昭和十五年、「金峯山(三)」八三~八四頁。
[6]原全教『奥秩父』朋文堂、昭和十七年、「東口」四四四~四五三頁。
[7]吉沢一郎「奥千丈迷路行」(『登山とスキー』九巻一〇号、一三~一八頁)、昭和十三年。
[8]北村峯夫「奥秩父の山々」(『山と高原』二九号、七~一三頁)、昭和十六年。
[9]青垣山の会『山梨県県有林造林:その背景と記録』、平成二十四年、有井金弥「拡大造林との出会い」五四~五五頁、高山巌「奥千丈事業地の森林整備の方向」六一~六二頁。
[10]小野幸「秩父の寸景」(『日本山岳会会報 山』一六六号、六~七頁)、昭和二十八年。
[11]小野幸『マウンテンガイドブックシリーズ19 奥秩父』朋文堂、昭和三十一年、「石楠花新道より国師岳」六八~六九頁。
[12]芳賀正太郎「国師岳天狗尾根」(『新ハイキング』四五号、五六~五八頁)、昭和三十二年。
[13]山と渓谷社編『奥秩父の山と谷 登山地図帳』山と渓谷社、昭和三十三年、橋爪宗利「杣口から国師岳へ」一八三~一八五頁。
[14]北村武彦「金峰山集中登山」(『山と高原』二七六号、二四~二七頁)、昭和三十四年。
[15]山口源吾「関東山地における高距縁辺集落」(『歴史地理学紀要』一〇号、一九一~二一八頁)、昭和四十三年。
[16]山と渓谷社編『奥秩父 アルパインガイド15』山と渓谷社、昭和四十年、河合敬子「国師岳Ⅰ─琴川コース─」一三八~一四〇頁。
[17]西裕之『特撰森林鉄道情景』、講談社、平成二十六年、「杣口森林軌道」七八~八〇、「山梨県林務部の軌道」八一頁。
[18]芳賀正太郎編『奥秩父・大菩薩連邦 アルパインガイド35』山と渓谷社、昭和四十八年、「琴川から国師岳」一一四~一一五頁。
[19]国土地理院『二万五千分一地形図 金峰山』(昭和四十八年測量)、昭和五十一年。
[20]山と渓谷社編『奥秩父 アルパインガイド15』山と渓谷社、昭和三十六年、筒井日出夫「杣口から国師岳へ」一八三~一八六頁。