小室川・金場沢

 室川の源流の一つである金場沢は、遡行ガイドで核心部通過後の詰上げ経路として示されるものであり、遡行対象としてわざわざ訪れる沢とは考えられていない。だが、奥多摩・大菩薩地域の小規模な沢と比べ遜色ない。 体調が万全でなく時間もなかった今回 、手頃な遡行が楽しめた。
小室川源流は人の入りが稀であったと思われ、沢名は資料により一定しない。本沢として特に名が与えられない場合もあれば、資料により様々の名があてがわれる場合も見られる。ここでは小室川に関して解説した唯一の資料である原全教の著書[1]に明記された、「金場(カネバ)沢」の名を用いることにした。丹波川流域には金場の地名が幾つもあり、付近では芦沢山に金場、山葵谷山(今倉山、サカリ山とも)に大金場の呼び名もある[1,2]。なおフルコンバの「コンバ」は「木場」を指す[3]というので「金場」とは別らしい。

● 井戸川出合~1785M圏二股

 小菅林道終点からノーメダワまでは、東京都水源林の巡視道で正味約一時間半である。網目状の複雑な路線網は一見無駄な上下が多く時間を食ったが、一番早いのは、今回通らなかったが、恐らく日向沢登山口からフルコンバ小屋跡に向かう大菩薩登山道の1410M付近で水平に別れる日向沢林道[4]であろう。フルコンバ小屋跡で大黒茂林道に入り、小室川を再設された木橋で渡ると、新道は直ちに笹の中を登り始めている。そこから小室川左岸の旧巡視道に入ると、直ちに左岸から井戸川が出合う(1230M圏)。この地点から遡行を開始した。

 上流とはいえ小室川本流なので、初めは水量が意外と多かった。小滝を交えつつ平凡な流れを行き、左に曲がると二本の見事な滝が連続して現れた。一つ目の二段10Mは緩い下段に続く上段を左のフェースから攀じ登り、二つ目の豆焼沢征小屋滝に似て整った8Mはシャワーを嫌って右から高巻いた。沢は右折後、直線に戻り、谷が広がり明るくなって、蛇抜沢を右に分ける1:1の二股を迎えた。
 ここからが、金場沢である。水中に見える造林ワイヤーは、昭和四十年代前半の右岸皆伐[5,6]の名残である。うっすらと歩いた跡が続くようになったのは、作業道の痕跡だろうか。沢は一時伏流したが、水流はすぐ回復した。天然更新により植生はちょっと見て分からぬほどまで復元していたが、フルコンバの真下付近まで進むと、左岸に植林年度と樹種の表示板があり、整地と割れた茶碗の欠片があった。作業小屋でもあったのだろうか。当時の伐採区域は、旧フルコンバ造林小屋直下の斜面と金場沢左岸なので、尾根越しにフルコンバを経て小菅川に搬出していたものと推測される。大きな索道用の台車が沈んでいるのさえ目にした。
 階段状8Mを越えると、しばらくナメが続く楽しい区間となった。1550M圏の小さな二股を過ぎた1600Mあたりから、勾配が付いてガレ気味になり、いつまであるものか分からぬが、谷に挟まって止まった大岩があった。そこに倒木が溜まって、変に通過し難かった。単調な詰めを続け、ツガとミヤコザサの植生になると、獣道らしい踏跡が笹の中に見え始めた。1785M付近の左から小さなガレ窪が入る地点で、それまでよりはやや明瞭な踏跡が横切った。そのすぐ上で、伏流か分からぬが水が消えていたので、ここで遡行を終了し、大菩薩環状林道、丹波大菩薩道の旧道を経てノーメダワに抜けた。

 水平を意識しながら笹の中の踏跡を荷渡場を目指し南に辿ってみた。沢近くで明瞭だった踏跡はすぐ曖昧になり、不規則に明滅し始めた。一度途切れると続きの発見には手を焼き、また幾つかが併走しているようにも見えた。微小な小尾根を回る時、一瞬道らしくなったが、すぐまた不安定な痕跡に戻った。
 一つの尾根を回り込む直前で、明らかに古道を感じさせる道型になった(後日、荷渡場から一ノタルへと大菩薩嶺の北東を巻く環状林道─廃道─と知れた)。小室川・小菅川分水尾根を回って少し薄くなった踏跡を辿ると、かなり明瞭な道型に出合った。その道は小室川・小菅川分水尾根の南に絡んで下っていて、あまり明瞭なので一般登山道と思ったが、後ほど小菅大菩薩道の旧道と知ることになった。
 フルコンバ小屋跡で一般登山道に合流し、胴切尾根を経て日向沢登山口に戻った。

 

⌚ฺ  小菅林道終点6:06-日向沢登山口6:08-(矢下沢の林道経由、途中道捜索8分)-ノーメダワ7:31-7:54小室川の木橋7:55-7:56井戸川出合(沢装備)8:16-蛇抜沢出合8:51-(造林地の様子見13分)-9:34 1550M圏二股9:39-(休・道捜索15分)-10:35 1785M圏二股11:13-(休3分)-11:39丹波大菩薩峠旧道11:43-(休2分)-12:00フルコンバ小屋跡12:03-12:55日向沢登山口12:57-13:00小菅林道終点 [2017.9.3]
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小室川を渡る大黒茂林道の木橋
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穏やかな小室川源流の渓相
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二連続滝の下の滝(10M)
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征小屋滝風の上の滝(8M)
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水中に見える伐採時の台車
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蛇抜沢出合付近の明るく開けた谷
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左岸に見た植林表示板
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近くの小屋跡らしき整地の茶碗の欠片
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流れに沿って造林ワイヤーが残置
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容易に越せる8M階段状
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ナメが続く快適な区間
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大岩と倒木が谷を塞いでいた
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左にガレが入り水が消えると遡行終了

 

[1]原全教『多摩・秩父・大菩薩』朋文堂、昭和十六年、一七五~一八〇頁。
[2]岩根常太郎「鶏冠山と泉水谷」(『山小屋』四〇号)、一八二~一八六頁、昭和十年。
[3]田島勝太郎「大菩薩嶺から小金沢山まで」(『山と渓谷』二七号)、六~二七頁、昭和九年。
[4]神山弘「たばやまだいぼさつみち」(『ハイキング』一〇四号)、四八~五四頁、昭和十六年。
[5]東京都水道局水源林管理事務所『水源林管内概要図』、昭和四十二年。
[6]国土地理院『空中写真(塩山)CB7212Y(1972/09/18)』、昭和四十七年、C12-13。