細久保水源林道 【廃径】

 細久保水源林道(仮称。正式名は不明で、ガイドによっては細久保林道とも紹介。)は、細久保造林小屋から仙元尾根の大楢に上がり、以後稜線北面を巻きながら大クビレに達する古い林道で、「奥秩父・正」(原全教、S8)の付図に三ツドッケ付近までが、「奥秩父(S17年版)」(原全教)、「奥多摩」(宮内敏雄、S19)に全線の記入があることから、昭和初期にはすでに開通していたとみられる。
 天目山林道、仙元林道(いずれも車道)の開通により、ある部分は破壊され、ある部分は必要がなくなったのであろう、道の様子から見てほぼ放置されているようにも見える。ガイドブックへの記載は稀で、前出の「東京附近沢歩き」では、フキアゲ沢源頭(大平山北方)から林道経由で大クビレを経てシャクナン尾根まで2時間30分、さらに一杯水まで40分とされている。
 この林道は大クビレからさらに大久保谷の源頭を巻いて川浦谷へ通じていたが、経路が殆ど車道と重なってしまい、使われていないとみられる。数箇所で見た範囲では、痕跡を残す程度でほぼ消滅状態となっている。

●シゴー平~29・30林班界

 細久保橋を渡って1~2分の最初のヘアピンカーブ先のロボット雨量計付近から、大楢への旧道が始まる。入口は林道造成で消えているが、植林中にすぐ踏跡が見つかる。真東にトラバース気味に上るが、自然林に入ると上部を行く林道造成時の荒れと自然崩壊とで、次々と危険なトラバースを強いられる。
 旧道は、大楢から北西に分かれる支尾根上の940M圏峰から細久保谷に北東に落ち込む小尾根に取付く。崩壊をよじ登って730M圏で仙元林道に這い上がり、林道を横切って石灰で固めた法面を登ると、すぐまた林道のヘアピンカーブに出る。
 次の法面は蟻地獄の様に崩れて登り難いので、850Mまで林道を歩き小さな窪を行く踏跡程度の間道に入った。伐採後放置された谷は苔むした良い雰囲気で、手入れが行き届いた植林より却って美しいのは皮肉なものだ。
 踏跡はやがて910M圏鞍部に上がり、再び先ほど離れた尾根上を行く。2~3分行くと尾根筋から右に逸れ、巨大な岩の下をジグザグを交えて登り、植林地に入る。
 トラバースしながら登る踏跡は、隣の小尾根を乗り越し自然林に入ると、途端に崩壊で寸断されている。危険である上、そもそも道筋を確実に捉えることが難しいので、小尾根を忠実に辿ることにする。仙元峠道の尾根まで登ると踏跡が現れ、すぐに大楢に着いた。
 大楢を発って30秒、明治神宮林看板地点で、東から登ってきた仙元峠道に合流する。先ほど小尾根に移るとき捨てた細久保水源林道の痕跡も西の谷から上がってきている。これから辿る林道は尾根の西を水平に巻きながら付いている。比較的明瞭で、多少は歩かれているようだ。
 林道を境に上部が自然林、下部は植林と自然林がめまぐるしく入れ替わる。崩壊を高巻いた後、次の小尾根で作業道を下に分ける。折り返して高度を上げる地点で作業道と交差するが、林道自体が折り返すため踏跡が乱れ、交差を認識し難い。道が流され迷いやすい崩土地を通過し、次の小尾根で48空中図根点の標石に達する。
 ここからの自然林帯は笹の衰退による崩壊が頻発し、神経を使う巻きの連続し、やがてシゴー平へ下る踏跡が分岐する29・30林班界となる。

 

⌚ฺ  シゴー平-(1時間20分)-大楢-(1時間25分)-29・30林班界 [2012.4.24]

 

●29・30林班界~細久保乗越下(細久保支線交差地点)

 2~3ヶ所の岩場を注意深くへつって通過すると、数百メートルの幅広い岩礫崩積帯に出る。標高は約1280Mだ。
 林道はここから1350M近くまで、急速に高度を上げるのだが、ちょうどその部分が崩積帯と重なっており、道が流失している。しかも敷き詰められた礫のため、流失後の通行者の痕跡が殆ど残らず、林道はほぼ寸断された形になっている。
 林道の正しい経路を知らぬ者がつけたであろう怪しい踏跡がほぼ水平、もしくはやや下り気味に続いており、前回訪問時(2012年4月24日)は正規道を捜索する時間がなく、これを辿っている。
 その水平な踏跡には入らず、緩く登りながらトラバース気味に高度を徐々に上げる。百数十メートル進んだ頃、岩塔群に行く手を阻まれるが、基部を通過してなおも緩く登って行く。
 徐々に道が復活してきて、棒杭ノ頭の下辺りで上からの踏跡を合わせる。この踏跡は恐らく、旧林道を東行してきた者が道を失い、誤ってつけたものではなかろうか。
 細久保谷のグミの滝上で右岸から合流する支沢の源頭をトラバースするあたりから、再び林道は迷うことない明瞭な道になり、そのまま支線と十字に交差する。
 交差地点は踏跡が乱れて不明瞭だが、支線には異常に多数のマーキングテープが氾濫しているので、それを知ることが出来る。

 

⌚ฺ  29・30林班界-(45分)-細久保乗越下 [2012.11.10]

 

●細久保乗越下~ハナド岩下

 支線との十字路から、少し登り気味にスタートし、後は暫く三ツドッケ東斜面の心地よい自然林を水平に進む。
 概ね道は良いが、時々崩壊箇所があり、うち一ヶ所は少し緊張する。水平道が突然不明瞭になる部分で、道は電光型にシャクナン尾根まで登る。
 緩く下り初めてすぐ、踏跡がついた次の顕著な尾根を通過し、やや細い踏跡状の道となる。
 ハンギョウ峠の下のカラマツ植林に入るあたりに古いテープがあり、下への道が分かれる。ハンギョウノ頭の下を通るあたりで植林が途切れ、道が不明瞭になる。
 ハナドから北東に伸びる24・25林班界尾根で再びカラマツ植林となる。このあたりでは、林道は頼りない踏跡程度に衰退している。この尾根を過ぎ自然林に入ると、薄い踏跡が散在するものの、道型はほぼ消滅する。

 

⌚ฺ  細久保乗越下-(1時間25分)-ハナド岩下 [2012.11.10]

 

● [逆行区間]大栗ノ頭北東尾根~ハナド岩下

 先ほどまでほぼ消滅していた道は、尾根を過ぎると幸い、痕跡程度に回復してきた。基本は水平に行けばよいので、僅かな痕跡さえあれば追跡には十分だ。
 ハナドに近づくに連れ、斜面に露岩が現れるようになり、大きな岩の下を下り気味に通過したと思うと、次の窪の対岸が岩壁になっている。そこまで辛うじて続いていた道型は、忽然と消えてしまった。水平に進もうにも、一般登山のレベルでは取り付く島のない岩壁である。
 とりあえず窪に下りて、対岸の岩壁を良く観察した。林道のことを忘れて、単純に岩登りと考えるとどこにルートを取るだろうか。描いた通りに岩壁を登るように進んでみると、果たして道のごとく踏まれた跡が確認できた。窪ら見上げると道型は分からないが、実際に立ってみると注意すれば通過できる程度の露岩帯であった。その踏跡をもう少し辿ると、ハナドの北東尾根である。

 

⌚ฺ  大栗ノ頭北東尾根-(20分)-ハナド岩下 [2014.12.10]

 

● [逆行区間]七跳山東の細久保谷源頭~大栗ノ頭北東尾根

 現在、車道からの取付点は、大クビレではなく、林道が、七跳山の東、細久保谷源頭の窪を渡る地点となっている。
 礫で覆われた窪は、さらにうっすら雪化粧しているため、殆ど道型を見つけることができなかった。始めは探しながら登り、1620M圏の七跳山東肩から東に出る尾根上で、初めて明らかにそれと分かる踏跡を発見した。その尾根から大クビレ側を見ると、言われてみればそうと思うほどの微かな痕跡が続いていたが、道とは言えないほどのものだ。
 面白いことに、この尾根から東の踏跡は何とか見える状態であり、突然道が発生しているようにも見える。この尾根を微かな踏跡が登って来ているが、そちらの方がルートとして定着したためであるかも知れない。
 ここから林道は、ほぼ登高に続いている。1~2cmの雪が、微かな道型をちょうど浮かび上がらせている。果たして雪がないと、踏んだ後が見えて分かりやすいのか、道型のコントラストが消えて分かりにくいのか、判断がつかないが、これはこれで経路を知るのに都合が良い。
 ヤブや崩壊がない、疎らな伐採後の二次林が続くので、多少道筋が見えにくい場所もあるが、快調に歩みを進める。ただし手入れされていないため、成長が速い木があると枝の張り出しで完全に道が覆われている。歩きやすいのは、あくまでも偶々のようだ。
 県境が1540M圏にまで下がるところでは、稜線が目の前に迫ってくる。もしこれがしっかりした道であれば、稜線からはっきりと見えることだろう。帰りに車道を歩いているとき、この真下辺りで東京都レンジャーの車を見た。都の職員もこの最短ルートを便利に使っていると推測された。
 時々、道の流失や倒木で曖昧になるが、全般的には道は驚く程よく保存されている。
 大栗ノ頭の北斜面1500M付近の、地形図の小さな岩記号を通過する辺りで、4つほど桟橋が連続する。全て腐っているが、危険箇所は土砂で埋まったと見え、脇から楽に通過できる。
 そのすぐ先で北西に伸びる小尾根を回るが、この先の二次林で突然道型が消えた。時々微かな痕跡が現れるが、また分からなくなってしまう。何となく感じる道の雰囲気を唯一の指標として、とにかく水平に進むしかない。この辺り、緩斜面で木々の生育が良いためかもしれないが、あれだけ安定していた道型が急に消えるのには驚いた。
 不明瞭な自然林を10分弱進んで、何とか大栗ノ頭北東尾根に辿りついた。特徴のない尾根だが、辺りの景色からそれと推測できる。確認のため3分ほど登り、以前来た三ツドッケの展望が素晴らしい岩の上に出て、それと確認した。
 このとき明らかになったのは、かつて林道の道型が見えないままこの岩まで来たとき、林道が消滅したためと思っていたが、林道がほぼ消滅しているのは事実ではあるが、今回の道筋と標高差で30Mほどの差があり、前回の経路は途中から正しくなかったことが明らかになった。前回道が消えたと感じた地点を覚えており、やはりそこでルートを失っていた訳である。
 また、前回の帰路に林道を横切っていたわけだが、林道が尾根を回るその地点だけ一瞬道型が見えているが両側が不明瞭のため、道とは認識できなかったのである。

 

⌚ฺ  七跳山東の細久保谷源頭-(45分)-大栗ノ頭北東尾根 [2014.12.10]

 

【林道途中へのアクセスルート】(確認済みのもの)

  • 仙元峠道(大楢付近)
  • 大栗ノ頭北東尾根

 

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棒杭ノ頭付近の旧細久保林道の流失区間
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細久保水源林道はこの程度の道型
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三ツドッケ東面をトラバース
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シャクナン尾根先の古い桟橋
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ハンギョウ峠下の分岐
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大栗ノ頭北東尾根の古い切株の展望地
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雪化粧に道筋が浮かぶ細久保水源林道。
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同地点で無雪の後方を振り返る
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踏跡が薄い県境稜線の直下を通過する辺り
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この辺も道型が良く見えない
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連続して桟橋がかかる
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大栗ノ頭北東尾根手前の林道はほぼ消滅
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大栗ノ頭北東尾根の展望地点に寄り道
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道型が多少復活する
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ハナド北東尾根手前の岩壁の窪