唐松尾・黒槐北面林道 page 3 【廃径】

 一般の通行は不可で、道の判別も困難のためトレースは難しい(参考に地形図を収載)。

 

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唐松尾北尾根~通り尾根(国土地理院の5万分の1地形図を使用)

 

● 唐松尾北尾根一九五〇米付近(黒岩新道交点)~唐松尾・黒槐最低鞍部(1988M)下

 出発点は、唐松尾北尾根の黒岩新道との交点である。萩止ノ頭北東尾根二〇〇〇米圏の小峰から北に出る巨岩が点在する小尾根の西側、一九五五米付近から、水平な痕跡を進んだ。苔に覆われた森林で痕跡すら分かり難いが、秩父の古道歩きの経験から、何かしら気配を感じることができた。緑一色のツガの森を登り加減に行くうち、上下に長い岩稜にぶつかった。下は黒岩の岩稜帯なので上を越すのが間違いなさそうだった。十数米の登りで上に出ると、地形的に唐松尾北尾根の主尾根であることがすぐ分かった。右手目前の露岩を越えて下る小径は、上黒岩へ続く下降路である。抜群に展望がよく意外と広い山頂へは、三十分で往復可能だ。
 尾根を回って水平に行く林道の続きが分からず探すと、やや上手(水平距離にして約二十米)に痕跡が見つかった。上黒岩の黒いドームが樹間に見え隠れしていた。シャクナゲとシラビソ幼樹との繁茂で痕跡すら不明になり、道らしい気配を感じて進むようになった。古い礫崩壊地を危険なくトラバースし、勘に頼って前進した。勘というといい加減に聞こえるが、勘にもいろいろなレベルがある。多くの過去の経験に基づく勘は、万能・完全ではないが得てして正しいことが多く、うまく言葉で表せないが古道らしい雰囲気を感じることができる。こうして辿った道筋が何かが通った痕跡であるのはほぼ間違いないが、それが林道なのか、猟師・採取者・討伐者の通路なのか、獣道なのかは、その場では判断できない。ある程度長い距離を追ってみて、地図上で予想通りの径路を辿り目的地にピッタリ付いた時に、初めて林道であると確信できる。
 唐松尾~萩止ノ頭の西斜面を通過する頃、次々と小さな岩稜帯が上から降りてきた。探せば越える場所は見つかるが、都度上下する必要があった。また礫崩壊も時々混じってくるので、それらのため微かな古道の気配が途切れ、その度に道が全く分からなくなった。最初の岩稜帯を水平に突破し、二つ目は試しに上を巻いてみるとうまく痕跡見つかった。岩稜帯の向こうにも道的な痕跡があり、登った分を下り返していた。すぐまた出合う長い岩稜も、上を越したかと思う。分散した不安定な痕跡が上下しながらうまく岩稜をぬけていた。いちいち探していては手間がかかり過ぎ、むしろ自らルートを探して岩をかわすうち、自然と踏跡がついてくる感じだった。岩稜などの障害物は基本的に登って越すパターンが多いように感じた。次の岩稜の小尾根を踏跡に従いまたも登って越すと、尾根上は展望の良い露岩になっていた。ここを下ってすぐ、また次の岩稜尾根が現われ、これも登って越した。垂壁下を通過するとやっと落ち着いたモミやツガの美林になり、弱い踏跡だが露岩・倒木・ヤブもなく歩みが捗った。唐松尾山の2020M圏西鞍部の下を通過するとき、稜線がわりと近そうに見えた。
 森がまた荒れてきて、断続的な痕跡を何とか拾っていたが、幼樹の繁茂が強まると痕跡も不明になり、道の気配を繋いで進むようになった。顕著なガレ窪は、意外と容易に渡ることができた。シラビソ幼樹のヤブが酷くなり、道の痕跡はあっても足元が見えにいため危険で、なかなかスピードが上がらなかった。さらに倒木と稜線から落下してきた巨石が加わり、道の位置が分からないどころか、通過すら非常に難儀するようになった。徐々に幼樹ヤブが収まる気配を見せる頃、道型が多少見えるようになり、国境稜線が非常に近くなった。試しに一度稜線に出てみると、登り三分、下り二分で、一九八八米の唐松尾・黒槐最低鞍部に立つことができた。立派な登山道が通過するこの鞍部に道標等の設置物はなかったが、地形判断で位置を知ることができた。

 

⌚ฺ  唐松尾北尾根1950M圏-(10分)-唐松尾北尾根主尾根(黒岩分岐)-(1時間5分)-唐松尾黒槐最低鞍部下 [2018.4.28]

● 唐松尾・黒槐最低鞍部(1988M)下~枝沢渡沢点(1915M)

 幾つかの痕跡が並走し、最も酷かった区間よりましだが、相変わらず幼樹ヤブと倒木が続き、ペースが上がらなかった。枝沢源流の東側斜面に入ると、次第にシャクナゲが目立ってきた。酷くシャクナゲが繁茂した小尾根を越えるころ、枝沢の音が耳に入ってきた。枝沢左岸に落ちる激しいガレが見えた。この辺り、幼樹・倒木・巨礫の荒れた山腹を行くのだが、大抵は何とか通れる場所があった。断続する道の気配を注意深く追った。古林道か獣道かはその場で見て分かるものではないが、岩などの障害物をきっちり避けつつ等高に長い間続くのは、人が造った道であろう。消長するシャクナゲヤブを、漕いだりかわしたりしながらやり過ごした。シャクナゲのヤブでは道の痕跡が全く見えなくなるが、痕跡は伸びた枝で全く見えなくなっているだけであり、絡み合って突破不能な通常のシャクナゲヤブと異なり、正道なら枝の下に何とか歩けるスペースが残っている。だから、突破を試みて通れる場所が連続すれば、そこが正道のルートと考えられる。道は基本的に水平だが、猛烈な幼樹ヤブと倒木帯を除けつつ上下して進むので、実際水平かどうかも分からなかった。
 枝沢が近づくと両岸に何本も落ちるガレを次々と渡るようになった。幼樹が育ちつつある古いガレを容易に通過したが、幼樹ヤブのため対岸に続く踏跡を見つけるのに苦労した。またもやシャクナゲヤブが強まってきた。倒木も激しくなかなか進まなくなった。露岩も加えた三重苦を縫って、何となく歩ける部分が水平に続いた。ごくまれに瞬間的だが明らかに道形を感じる部分があった。幅約二十米の顕著なガレを容易に渡った。ガレの突入部の道形は明確で、ガレを渡る間もある程度踏まれていた。途中で下を覗き込むと、もう枝沢の白い波頭が明瞭に見えていた。ガレ左岸で踏跡は小尾根に絡んで下っているようだった。次第に高度を下げているらしかったが、倒木と幼樹ヤブで明確には分からなかった。
 緩く下りながら、枝沢一八九八米圏右岸支窪を渡った。唐松尾以西で初めての水場だった。前後の道型は倒木と崩壊で完全に消え、付近の道筋が確認できなかった。さらに行手はスラリー状の砂岩が枝沢右岸に流れ込んで道が消え、踏跡はその上を巻いていた。道型が不明なまま、枝沢の一九一五米付近に下り着いた。事前情報から推定された地点とほぼ一致し、概ね正しい林道径路を辿ってきたことが確信された。ガレで埋まった沢筋は、水涸れが近く水量も僅かだった。両岸から崩壊したガレが落ち込み、沢筋の倒木も多く、近辺の地形がよく分からなかった。

 

⌚ฺ  唐松尾黒槐最低鞍部下-(55分)-枝沢渡沢点 [2018.4.28]

● 枝沢渡沢点(1915M)~通り尾根(1880M)

 左岸の低い笹には不明瞭ながら幾筋かの踏跡が見え、その一つを辿ると、すぐに一九〇五米圏出合左岸支窪の小流を渡った。支窪右岸に上から降てくる踏跡が見えた。支窪の先、笹の中にわりと明瞭な踏跡が続くようになった。笹は南斜面で優占するので、南東向きの枝沢左岸も笹原の中に樹木が点在する状況であった。これほど明確に道が分かるのは、唐松尾以来初めてだった。
 枝沢左岸で一つ目のガレを容易に通過した。右岸の林道歩行時に厳しそうに見えたガレだったが、表層は安定し特に危険はなかった。逆に先程難なく渡った右岸のガレが、ここから見ると大変そうに見えた。いつものことながら、やはり実際に言ってみないと分からないものだ。笹の表土保持力は凄いもので、日当たりの良い枝沢左岸で唐松尾以来初めて見る笹原では、結構道型が明確に見て取れた。荒れ気味ながらも、明らかに「道」らしい感じがするので、たまに倒木があるものの格段に歩きやすかった。古いガレの跡を渡り、続いて小窪を通過した。倒木の枝が明らかに明瞭な切口で切り落とされていて、人手によるものと知れた。相変わらず良い踏跡が続いた。次の礫が転がるガレも、全く安全でただの草付の様な感じだった。
 ここまで明瞭だった道は、小窪(枝沢一八一〇米圏左岸支窪)右岸の北向き斜面の幼樹ヤブで、一時ほぼ不明になった。この小窪はすぐ下の二俣で二流に分かれ、その右俣は水がスラブ表面を伝う芸術的な造形美を見せていた。すぐ先の容易なガレでは、道型の一部が埋もれず残っていた。森林が現れると、荒れの程度は枝沢右岸より大分マシだが道筋は全く不明になり、たちまち倒木で分からなくなった。それが笹原に切り替わると、有り難いことに再び歩きやすくなった。だがここが最後の強い笹原で、この先通り尾根二〇二〇米圏峰の北東尾根を回ると、伐採・倒木など顕著な外乱が起きた場所を除けば、もう顕著な笹原は現われなかった。
 森林が優占し初めると下層に低く疎らな笹が現われはしたが、弱く曖昧な踏跡は複数に分かれて並走し、もはや道しるべの役を果たさなかった。山腹に幾つもの踏跡が消長し、信ずる踏跡もないまま捜索しながら進んだ。幼樹ヤブの一帯を通過し、容易なガレ窪を渡った。続いて煩いシャクナゲヤブを分け進むと、小窪の向こうに大岩があった。もうどこが道か見当がつかず、水平を保って進むことしかできなかった。その大岩を上から越すと久しぶりに上から緩く下ってくる小さな踏跡が目に入った。多少踏跡が落ち着いてくると、二〇二〇米圏峰から北に出る小尾根を回った。やや曖昧な二、三の踏跡がほぼ水平に並走し、そのまま通り尾根の一八八〇米付近に到達した。この付近の通り尾根は尾根形状が曖昧で、尾根道も見落としそうなほど弱いものだが、幸い四年前に付けた白テープがちょうど眼の前の細い木に巻いてあった。

 

⌚ฺ  枝沢渡沢点-(45分)-通り尾根1880M付近 [2018.4.28]

【林道途中へのアクセスルート】(確認済みのもの)

  • 唐松尾黒槐最低鞍部(2044独標東鞍部)から下降してすぐ

 

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黒岩新道と北面林道が交差する付近
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苔むした森林の道の痕跡を行く
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唐松尾北尾根の主尾根の道型
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枝沢に向かう出だしは道がよく分かる
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次々と出合う岩稜を丁寧にかわす
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垂壁下を通ると落ち着いた森林に
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道がよく残ったきれいな森
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崩礫・倒木・幼樹ヤブで道が荒れ始める
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唐松尾西鞍部下で一度国境が見える
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ガレは安定し容易に渡れる
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国境まで登り3分の最低鞍部下
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倒木等による天然更新で幼樹ヤブが繁茂
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シャクナゲが出始めたがまだ道は見える
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多くのガレは全て容易に渡れる
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シャクナゲの枝張りで道は完全に覆われる
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荒廃して道型不明な箇所が多い
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ガレの入口にきれいな道型が残っていた
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枝沢右岸のガレから左岸の崩壊を望む
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最後の雪が残った凹地
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枝沢に流れ込むスラリー状の砂岩
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幼樹ヤブと倒木で身動きできない一帯
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細流となった枝沢源流を渡る
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ガレで埋まった枝沢の荒れた詰め
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左岸の明瞭な笹の道で枝沢を離れる
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笹原に細いながらも完全な道が続く
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笹原と森が交互に続く
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スラブの表面を音もなく流れる支窪
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倒木処理の切口が唯一の人為的痕跡
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北斜面は森林に包まれ道が怪しくなる
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倒木が続くと全く分からなくなる
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森が隙いて踏跡が多少見えてきた
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通り尾根で四年前のテープを発見