梓久保林道 【廃径】

 現在梓久保林道というと、梓川国師併用林道から分岐する唐松窪付近から梓川西沢沿いに1950M圏まで延びる車道のことを指す。しかしかつてこの名は、その車道の終点付近から、国師岳北尾根を越え、金峰山川上流のワゴノ沢出合付近(1700M圏のあたり)で奥秩父主脈の朝日峠を越えて甲信を結ぶ大薙林道(廃道)に接続し、川端下に繋がる歩道のことであった。

● 車道(川上牧丘林道)1980M圏~国師岳北尾根2150M圏乗越

 川上牧丘林道1980M圏の「金峰山国有林第52・53林班更新試験位置図」の看板脇から入山した。林道下のヤキウ沢まで、カラマツ植林地の小さな踏跡を下ると、対岸が更新試験地である。踏跡をうまく捉えると、ヤキウ沢を渡った地点で旧農林省林業試験場の帯状皆伐天然更新試験地の倒れた標柱が見られるので、ここが更新地への入口のようだ。山林が幅20~30mほどの数本の縦縞状に皆伐され、そこに試験用らしい塩ビ管が多数埋められている、妙な場所だ。
 ヤキウ沢左岸を上がってきた梓久保林道は、この付近で沢を渡り、2201M峰北西尾根にジグザグに登っているはずだが、多くの縦方向の伐採跡と多数の作業踏跡とに撹乱され、林道の道筋がわからない。仕方なく縦縞上の皆伐跡を利用して少し高度を上げ、さらに西側のカラマツ植林内の多数の踏跡の一つを使って、トラバース気味に登りながら、2201M峰北西尾根の2040M圏の尾根上に出てみた。
 尾根の北側の二次林らしい細い木ばかりの自然林には顕著な踏跡がなく、そこで植林界の尾根上の踏跡を進んでみた。傾斜が大きくなる2050M圏辺りで、カラマツ植林は右方へ遠ざかっていき、尾根筋は潅木の歩き難い自然林に覆われてしまう。
 林道は尾根の北側に回り込んでいるはずなので、潅木の茂みに潜り込むと、尾根筋以外は潅木が少なく、そこそこ歩ける状態だ。幾つもの微かな、踏跡ともいえないほど弱い道の痕跡があり、それらを繋いで水平に進む。
 時に現れる倒木や潅木帯に邪魔されながら進んだが、少し高度を上げ気味に進んだところ、うっかり2110M圏峰に登ってしまった。頂上付近は、巨岩、倒木、それに繁茂する矮性のシラビソが繁茂し、極めて歩き難い。しかし北に少し尾根筋を外れるだけで、かなりましになった。
 2110M圏峰の東の2090M圏鞍部を北巻きすると、北西に走る微小尾根が地形図で確認できる。辺りは落葉樹の二次林が多い中、この小尾根は黒々とした原生林が残っており、のっぺりした地形の中でよい目印になる。おぼろげな踏跡に従いこれを水平に通過し、その後も、明るい二次林と、暗い原生林を、目まぐるしく交互に通過していく。この一帯も、かつて縦縞状に伐採されたようである。涸窪となった緩く広い谷のワゴノ沢源流を使って高度を上げ、最後は原生林の中を進んで、国師岳北尾根2150M圏乗越に出る。地形的に不明瞭な広い場所で、ぼんやりした踏跡の痕跡が各方向についているようだ。どこが最低点かも分からぬような、倒木とコケに覆われた原生林のだだっ広い森であった。ここの通過は磁針だけが頼りであった。鞍部の西端に、岩の上に本体があって根を岩を抱えるようにタコのように伸ばした面白い木があり、貴重な目印になった。

 

⌚ฺ  車道(川上牧丘林道)1980M圏-(45分)-国師岳北尾根2150M圏乗越 [2013.6.6]

●国師岳北尾根2150M圏乗越~車道(梓久保林道)終点付近(2000M圏)

 国師岳北尾根2150M圏乗越の東側は、梓川西沢に向かって緩く傾いた斜面だった。それを真っ直ぐ下らず、北東にトラバース気味に行く微かな痕跡があった。これが旧梓久保林道の痕跡らしかった。その痕跡は完全な水平ではなかったが、谷の左岸をほぼ一直線に北東に下っていた。痕跡は原生林の中で自然に帰りつつあり、径と認識できるか微妙な状態だが、コケの生え方の少なさや木の間隔の多少の開きで辛うじて判断できた。
 痕跡はだんだん緩やかな谷の中に入って行った。2100M圏で谷は多少傾斜がついて狭くなると同時に、原生林が終わり伐採後の二次林になった。涸沢の左岸に歩いた形跡があった。続いて沢身を下り、水が現れ沢の傾斜がきつくなると痕跡は右岸に渡り、さらに右岸の微小支窪を入った。再び本沢に合流し、酷く荒れた植林や二次林を下った。小沢は滝を掛けた急流になり、ほどなく2000M圏の広い湿地状の河原でで梓川に合流した。右岸を僅かに登ると荒廃した車道の痕跡があった。これが常楽院平から来る新・梓久保林道のようだった。
 余りに荒廃が酷く、俄かには車道と認識し難い状態だったので、確認のため1980M付近で右岸から出合う涸窪まで車道を下ってみた。車が走れそうな部分はほとんどなく、崩れて歩道分の幅しか残っていない箇所、道型が分からぬまでにヤブが繁茂し密林状になった箇所が続き、流失しかかった涸窪通過部の車道下に水を通す配管の残骸で漸く人工物であることを確認した。車道上のヤブを漕ぎ分けて進む踏跡の他、両側の山腹にヤブを避ける踏跡が出来、要所にマーキングが設置されていた。

 

⌚ฺ  2150M圏乗越-(35分)-車道(梓久保林道)終点付近(2000M圏) [2015.6.28]
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川上牧丘林道の入山口
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約50年前のヤキウ沢の試験地の標柱
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更新試験地の縦縞状伐採跡のシラカバ疎林
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カラマツ植林の尾根上の上端(2050M圏)
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梓久保林道の痕跡
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国師岳北尾根2150M圏のコルが近づく
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梓久保林道が緩い谷を下る辺り
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国師岳北尾根2150M圏のタコ足の木
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梓川へと下る微かな痕跡
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妖精が出てきそうな原生林の踏跡
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梓川右岸の消えかかった車道に出た