御座山南尾根・弥次ノ平 【藪径・雪径】

 かつて秘峰とされた御座山、憧れの地であり謎の存在でもあった弥次ノ平。前者は高速道路の伸延と自家用車の普及、後者は伐採用車道の開通により、気軽なハイキング登山の対象になってしまった。僅かに残る原生林を縫って御座山南尾根から尾根通しに弥次ノ平へ辿って見ると、在りし日の情緒が多少は感じられる。

●栗生登山口~御座山

 御座山の上栗生登山口の唐沢沿いの車道上にある、116号鉄塔を示す白い巡視道の道標に従い、廃道となった植林用林道に入った。東電の道標は黄色だけかと思っていたが、このあたりでは白色でデザインも違っている。駐車場の傍らの腐りかけた木橋を慎重に渡り、数分の廃林道登りで、また巡視道道標が現れ、右手の広い谷に入る。
 落葉して明るい石だらけの谷を行く道は良く踏まれていて、途中の石仏や小屋跡と思われる土台の石垣を見ると、古くからの道のようだ。
 1683.5Mの「唐沢尾根」四等三角点北の馬の背状に登りついた付近は、傾斜が緩い。原全教は、付録の地形図では岩稜直前あたりをハネノ平(羽根平)として印を付けているが、地形的にはこの地点の方が納得できる。ここで巡視道は右手の117号、左手の116号に分かれている。いずれも栗生川に近い鉄塔のため、稜線へ登るには使えないようだ。
 南尾根は一面カラマツ植林帯で、作業道らしきやや薄い踏跡が伸びている。これを辿って丸みを帯びた不明瞭な尾根を登っていく。点々と続く赤テープは、作業者が悪天時に道を失わぬためのものだろう。
 1850M付近で植林地が終わり、いよいよ御座山名物?の岩稜が現れた。踏跡は、うっすらではあるが、なおも続いている。
 最初の小岩峰は踏跡に従い左を巻き、1920M圏峰直下のボリュームある岩稜に取り掛かる。踏跡自体もバラけて来たので、勘と経験に頼って進む。登りでは、無闇に巻かず、あくまでも無理のない範囲で、直登を心がけている。その個人ルールに従い、いったん岩稜上に乗り上げて少し登り、クライミングの世界に入る手前で優勢な右に巻く踏跡に入った。岩峰の基部を下降気味に巻き、1920M圏峰から東に延びる支尾根に取り付き、しばらく支尾根を登って高度を稼いでから、1920M圏峰北のコル状に出た。この間つねに、踏跡というほどではないが歩いた形跡があった。
 少し南尾根登るとまた岩稜になり、今度は尾根筋を左からかわす踏跡が優勢のようだ。尾根上に続く岩の基部をなぞるように森の中を進むと、草付の急傾斜を横切る部分に出る。地形と踏跡とを慎重に見ながらそれを渡るとすぐ、標高2030Mあたりで正規登山道に合流する。ひと登りで祠のある2050M圏峰となり、下って登り返すと避難小屋がある。稜線を外れ、山頂から微妙に下った展望の良い岩場に、山名板がある。

 

⌚ฺ  唐沢小屋-(15分)-車道から離れる-(1時間25分)-御座山 [2011.4.30]

● 御座山~弥次ノ平

 弥次ノ平への下り出しは、避難小屋脇からのスタートだ。山頂直下の地形判断が難しいのでマーキングに期待したが、東尾根はあまり歩かれていないようで、マーキングや痕跡は見つからない。そこで苔むした原生林を、周囲の地形に気を配りながら慎重に下っていく。踏跡と言えない程度の儚い形跡はあるが、あまり当てにしすぎる訳にはいかない。原生林の隙間からほぼ真東に見える稜線上の鉄塔が、方向を知るのに役立った。標高2000Mまで下ると尾根がやせてくるので分かりやすく、廃道化した登山道がはっきり見えるようになる。稜線の南側は切れ落ちている部分が多いので、道は稜線のやや北側についている。荒れてはいるが、石楠花ヤブの岩稜を進むには、あるとないとでは全然違い大変ありがたい。
 地形図の2000M標高点は、南が切れ落ちていて展望が良い。ここまで順調で楽勝気分だったが、ここを過ぎて一大事となった。地形図に表記された情報にいくつもの間違いがあるのだ。特にこの後、全く記載のない岩稜帯にてんてこまいすることになった。ちなみにこの周辺の、登山上たいへん困った表記間違いは、以下の通り。
・2000M標高点の50~150M東の稜線南側に岩記号があるが北側には何もついていない。しかし実際は尾根上および北側も大きな岩稜帯になっており、大巻きしないと通過できない。
・稜線上の鉄塔位置(=送電線通過位置)の間違い。地形図では標高1950Mを通過しているが、実際は50Mほど西北西の1960M肩状を通過している。わずかの差ではあるが、岩稜を巻いて稜線上の鉄塔へ登り上げるときの谷が違ってくる。
・鉄塔の東側、約500M位の区間の林道の位置。地形図よりさらに稜線に近く、かつ一箇所地形図非記載のヘアピンカーブがある。
・林道は尾根を乗越している。乗越し点は、正しい114号鉄塔位置と弥次ノ平の西の1974M峰とのほぼ中点。なお尾根を越す地点で工事が中断しており、その北側には林道はない。稜線の南を走る一平沢林道の三叉路から、わずか10M程度の林道が北に分かれていることになる。
 さて、2000M標高点を過ぎると岩稜になってくるので、道は北側の低い位置をトラバースするようになる。石楠花の小尾根のところで岩稜帯にぶつかると、いよいよ前進困難となる。道らしき形跡はどんどん下に下っている。はじめはそれを辿ってみたが、あまりにも下るので戸惑い、立ち止まって考えた。下る道は獣道か猟師道か何かで、ルートは稜線近くにあるかもしれないと、岩と石楠花ヤブ斜面を散々探した。このあたりから石楠花の勢力が強くなっており、大量のひっかき傷と体力消耗を受けることになった。ついには岩稜上にまでルート捜索を広げ、一時は突破できるかに見えた。しかし最終的に高さ20Mくらいはありそうな稜線上の岩壁で行き詰まり、万策尽きて最初に戸惑った石楠花の小尾根地点まで引き返した。
 これだけ捜索してルートが見つからないとなると、北側の岩稜の基部まで下るしかない。数分の下りで、残雪でミニ雪渓状の岩稜北面のルンゼを何とかうまく渡れそうな場所を発見した。そこさえ過ぎれば、稜線までトラバースしながら緩く登っていけばよい。
 この間常に歩いた跡らしきものがあったが、残雪のため、古い道であるかは判断できなかった。
 鉄塔に北西から突き上げる、美しい原生林の傾斜の緩やかな熊穴沢の支沢を詰めると、ひょっこり西群馬幹線第144号鉄塔に飛び出す。表示はないが、北の小尾根を下る歩道らしき痕跡があり、143号鉄塔に続くものかもしれない。
 この鉄塔に登ってくる巡視道がなくおかしいと思ったが、稜線上の道がその先急に良くなったので、巡視道は稜線を通っているらしい。そして僅か数十メートル先の南に伸びる支尾根の手前で、良い道は林道方向に下っていった。
 もう行き詰るほどの岩稜はなく、廃道をフル活用してヤブ尾根を進んでいく。右手に林道がすぐ見えるほどになると、尾根は乗り越す林道で寸断される。下山時に見たのだが、上栗生林道~一平沢林道のあたりは白岩三川林道という副称があるらしく、その名前から予想すると、白岩に近い木次原から114号鉄塔の北600Mまで伸びる林道(地形図非収載)と接続すると思われる。

 登山道は、林道の尾根乗越し点から明らかに良くなり、廃道というよりは手入れの悪い歩道程度の感じになる。一般車通行止めの林道は良く整備された登山道とも言え、きっと弥次ノ平への登山者が利用しているためだろう。
 不明瞭な場所もあるが、やせた稜線の北を絡むように進めばよいので迷うことはない。あっという間に1974M峰につく。原生林の中の静かな小ピークで、赤テープが木に巻きつけてある。30秒ほど南に下ると南の展望が開けた岩があるので、遅めのランチを取りつつ、これから向かうほぼ国境稜線上の1980M圏峰の形状をよく観察した。
 出発してあっというまに弥次ノ平に着いた。マーキングや道標のないこの山域で、ここだけは沢山付いている。長野県設置の手書きらしい「休猟区」の看板が珍しい。弥次ノ平は美しい原生林の大木に埋め尽くされた美しい平地で、倒木や緑の苔の織り成す風景が、大自然の息吹を感じさせる。地形といい雰囲気といい、ハイカーにより俗化される前の和名倉山頂を思い起こさせる、すばらしい場所だ。地形図収載の弥次ノ窪を下る道は、認識できなかった。

 

⌚ฺ  御座山-(1時間)-114号鉄塔-(25分)-上三川白岩林道の途中-(25分)-弥次ノ平 [2011.4.30]

● 弥次ノ平~一平沢林道~上栗生

 それまで確りしていた登山道も、弥次ノ平から南側の1980M圏峰にかけては、稜線幅の広い平頂のため踏跡が分散している。
 1980M圏峰へは、相変わらず美しい原生林の緩い登りだ。そこかしこに歩いた形跡があるので、踏跡は頼りにならない。幸い1980M圏峰は平頂の中で明らかに頭ひとつ抜きんでたピークになっている。それを目印に東北東に分かれる国境稜線の下り口を判断する。この下り口もマーキングは認識できなかった。あったかも知れないが、平らな地形でそれを見つけることは容易でなく、自分の判断で進む方が現実的だ。磁石と地形と、誰かが歩いた形跡とを手がかりに、丸っこい尾根を不安を抱えて下っていく。少し下ると右手の谷がカラマツ植林地になるので、現在地の目安になって都合いい。
 標高1850M以下では、半分枯死しかかった笹ヤブが出てくるが、勢いがないので先人の通った跡を見つけて歩けば煩わしくはない。笹の中の踏跡が錯綜してくると、地形図で1791M標高点のある鞍部だ。適当な痕跡を拾って右に下ると、2~3分で廃林道の終点に近い地点に出る。林道脇の沢は、水場として十分使用可能な水量だ(ただし、歩行当日現在において)。
 すっかり登山道化した廃林道を下ること数分、新しいプレハブ作業小屋脇で現役の林道に出る。

 

⌚ฺ  弥次ノ平-(35分)-114号鉄塔-(25分)-一平沢林道-(1時間25分)-上栗生 [2011.4.30]

 

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南尾根の原生林
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御座山からの東尾根の下り出し
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尾根北面トラバースは残雪で踏跡不明
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1974M付近から弥次ノ平を望む
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弥次ノ平の古い表示板
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弥次ノ平の原生林