山林の所有者(地権者)

 全ての山には所有者(地権者)がいます

 どんな奥地の森林にも所有者(地権者)がいます。登山自体、他人の土地(森林)に侵入する行為ですが、土地所有者が闇雲に立入りを禁じているとの話は、まず聞いたことがありません。禁止を標榜している場合、例外なく侵入者側が迷惑をかけた前例があり、被害を受けないよう防衛的に禁止となっている様です。具体的には、遭難騒ぎを起こしたり死傷したりして迷惑をかける、ゴミを捨てたり伐採したり山を荒らしたりする、登山や駐車等で所有者の作業を妨げる、所有地内の山菜・きのこ・山葵等を盗る、などの行為です。例え国有林であっても、皇居や国会議事堂に自由に入れないのと同様、原則論としては勝手に入ることはできません。国民共通の財産として林野庁の森林管理局が管理しており、その許可のもとでの入山になります(登山の場合、一定の条件下、無申請で侵入が許可されています)。実際の入山については、従来からグレーゾーン的にある一定の範囲で、すなわち所有者に前記のような被害を与えぬ限り、何となく黙認されてきました。一定以上の知識と経験を持つ入山者が、節度ある行動を取っている限りは、大きな問題にはなりませんでした。
 ここで鋭い方は疑問を持たれるはずです。「所有者がいると言っても、誰が所有者か分からないから、許可の受けようがないではないか。」
 その通りです! 何と、山林の所有者は非公表なのです。まだ諸般の事情に詳しくなかった頃、私はある森林管理事務所で所有者を知ろうとしたところ、それは個人情報に当るので、山林の取引や開発を行うなど、正当な理由がないとして明確に拒否されました。少なくとも公有林なら教えて呉れていいのでは、と言うと、同じ図面に公有林と私有林とが同時に記載されていることもあり、結局個人情報が見えてしまうのでダメだと言われました。たまたまそういう地域もありますが、公有林だけの地域であれば情報を開示できるはずであり、何故それでもダメだと言ったのでしょうか。理由はどうでもよく、とにかく一般人には絶対見せたくないのだな、と解釈しました。それ以上事務所とやり取りする必要は感じず退散しました。
 管理側が非公開の立場を取る結果、訳の分からぬ事態が発生します。例えば埼玉県はホームページで「県有林作業用歩道への立入りは禁止しています」と言っていますが、まず県有林がどこであるかが分かりません。ましてや「作業用歩道」の具体的な位置が分からないので、立入らないよう注意することができません。県営林の看板や、立入禁止の掲示がある目の前はダメと認識するのが精々です。所有者側は、自分の土地に勝手に侵入する登山者を苦々しく思っているかも知れませんが、所有地や作業道の正確な位置を開示していないため、登山者が侵入しないよう気を付けることができないことも、侵入が頻発する一因と思われます。彼らが開示を躊躇う理由は、管理の難しさにあると推測されます。すべてを開示すると、「この山の所有者は○○だから、どうせ無断で侵入し、粗大ゴミを捨てたり、勝手に山菜を採っても、訴えてこないし実力行使にも出てこないだろう。」とナメられ、好き放題に山を利用されることを恐れていると考えられます。実際、山の隅から隅まで見回ることは、労力的に全く不可能です。従って所有者は、自己の権利範囲を明示した上、利用を厳しく制限するよりは、むしろ所有者を見た目に曖昧にし、余程のことがない限りあまり強く出ない様にして、問題発生を減らそうとしているように見えます。所有者側としても、完全に締め出すことができない状況があるので、一定範囲の侵入をやむを得ないと見ている面があり、侵入者との微妙なバランスが成立しています。
 しかし最近、川浦谷、大血川、滝川など、比較的交通の便が良い山域で、侵入しては死亡するなどして、お互いに迷惑を掛けないという暗黙のバランスを崩す事例が多くなり、所有者の東大はやむを得ず管理強化を打ち出してきています。自分の所有地が、青木ヶ原の樹海のような自殺の名所同然になるのが面白くないのは、よく理解できます。一部の侵入者のために、地域全体の管理が厳しくなってくるのは大変残念なことです。

 所有者を知る方法は?

 登山で行くような山域は、一部の民有林や地域共有林を除き、かなりの高い確率で公有林になっています。公有林であれば個人情報の問題はありませんし、具体的な所有者(管理者)を知ることは出来ないのでしょうか。
 公有林の場合は、所有者の方針が大きく影響します。国有林の場合、林野庁に情報公開制度(外部リンク)がありますし、そんな面倒なことをせずとも幾つかの方法があります(その方法論が多少複雑で変化も起きるため、責任を持って正しく説明するのも難しく、申し訳ありませんが具体論は省略させていただきます)。地方公共団体の森林では、まず東京都ですが、何事につけても情報公開を嫌っているのは有名で、山林に関しても全く同じ態度です。また他の自治体も、全国的には公開度の高い所もありますが、秩父近辺では全てが余り積極的には公開していません。ホームページを調べてみると、およその範囲は出しているところが多いようです。以下に、奥秩父関係の公有林範囲に関する、現時点(平成17年10月30日現在)のリンクをお示し致しますが、あまり熱心でないようなので何時まであるものか分かりません。

 国有林以外の公有林も、林班レベルで正確に範囲を知る方法はありますが、極めて個別的で煩雑であるため、ほぼ非公表も同然の状況です。一方立入禁止の告知や掲示はといえば、それもあまり力が入っていない感じで、一応形式的に言っておきます、というレベルです。掲示自体が決して目立つ方法でなく、しかも禁止範囲が不明確な状況なので、それほど真剣な禁止ではない様にも思われ、むしろ納税者でもある市民との、立入させろ、させないの押し問答を避けようとしている風にも見えます。最近長野県制定した長野県登山安全条例第20条第1項の「指定登山道」(外部リンク)もある種似たような側面があり、やはり登山届を出すべき対象の指定登山道の厳密な定義にも多少の曖昧さがあるように感じられます。誰も見張っていない山間部での行動については、規則や文章だけ整えて完全に管理しきれるものではなく、入山者一人ひとりに高い意識と行動が求められるということに他ならないと思われます。