八百谷林道 【廃径】

 槇ノ沢林道と平行して、恐らく昭和30年頃開設された新しい林道。この道を使って、ミョウキ尾根が皆伐された。滝川の奥深い部分を通過するにも関わらず、今も沿線の多くが伐採地や植林地になっている。

● 槇ノ沢林道の釣橋小屋上1150M圏~八百谷出合への下降点

 釣橋小屋から槇ノ沢林道を登った1150M圏で分かれて、滝川下流方向にトラバースを始めるのが、八百谷林道である。後日この分岐を訪問した時には、もう踏跡は見えなくなっていた。小尾根を回り、滝川右岸の自然林を槙ノ沢に向かって進んで行くと、大崩壊に突き当たる。踏跡は、危なっかしい崩壊の縁をどんどん登っているようだ。このコースで、一番高度感のある場所だ。標高差で約50M登った崩壊上端を通過し、傾斜の緩い尾根を回り込むと槙ノ沢左岸へと移る。後日分かったことだが、ここから尾根を下降するのが滝川右岸道だ(2013.5.26確認)。
 あたりは一変して、薄暗いヒノキ植林地となる。殆ど手入れされていないように見え、40年近い林の割りに生育が悪い。踏跡は、交錯する作業道と混じって、断片的になり分かりにくいが、僅かに登り気味にトラバースを続けて行く。ときどき植林が切れて明るい自然林になるが、すぐ植林地に戻ってしまう。
 植林の切れ目の明るい場所で渡る小さな沢に、残置ホースやブリキ材が落ちている。昔この下にあった作業小屋の水源か何かがあったのだろうか。
 1237M独標付近を通過すると、ようやく植林が終わり、初夏の美しい自然林に入る。相変わらず複数の踏跡が併走している。
 尾根を回り込むとすぐ、大トコノ窪を横切る。苔むしたきれいな流れで、思わず一息入れたくなるところだ。
 続いて、大きな尾根末端の緩斜面を回り始める。このあたりから、少し笹が出てくる。ここはなかなか気持ちいい場所で、コースのハイライトだろう。
 尾根を回り込む辺りから、笹ヤブが激しさを増してくる。あまり歩かれていない道ので、笹ヤブが濃くなるにつれ、急速にルート把握が難しくなってくる。
 次の窪は崩壊しているが、よく探すとその中を通過する踏跡が見つかる。辛抱強く踏跡を探しながら、笹ヤブを漕ぎつつ、微妙に下り気味に進む。やがて水音が近づいてくると、最後は中礫の斜面を下り、勢いよく流れるヒルノ沢を渡る。
 踏跡は、対岸に渡ると、急に斜面を登り始める。傾斜はきついが、この部分は笹の踏跡がはっきりしていてありがたい。
 猛烈な笹ヤブのトラバースが再開する。途中、小尾根を乗り越すところで、前方に八百谷出合付近のミョウキ尾根の末端が見える。まだ先は、長そうだ。
 断片的な踏跡、深い笹ヤブ、行く手を阻む倒木、崩れやすい足場、心が折れそうになるほど、どこまでもそれが続き、一向に距離が稼げない。
 この辺りで、人のような人でない様な、何か変な声がした。気のせいとも思ったが、何か怪しい。しかし、辺りの笹原には何の気配もない。上か!と後方の木の上を見上げると、木に登っている小熊が変な声の発生源だった。まだ、鳴き方が上手くなく、たぶん今年生まれた赤ん坊だろう。親グマに絡まれると面倒なので、そそくさと退散する。途中、槙ノ沢左岸に流れ込む小さな水流を何回も渡るが、伏流になった部分も多い。やがて八百谷出合付近に落ちる顕著な尾根に乗った。

 

⌚ฺ  槇ノ沢林道の釣橋小屋上1150M圏-(1時間20分)-大トコノ窪-(1時間25分)-八百谷出合への下降点 [2012.6.23]

● 八百谷出合への下降点~八百谷作業小屋跡

 槇ノ沢左岸の下降開始点は、3年前に来た時、左岸の高みを水平に来た踏跡がこの小尾根上で突然消え、仕方なく小尾根を登る踏跡に入った地点である。この小尾根の直前で水平道から左下に下り始める小さな踏跡が、林道らしかった。天然ヒノキに覆われたやや急な小尾根には道型が見えなかったが、ヤブもなく歩くのに不都合は無かった。微かに歩かれた気配を感じたが、踏跡と言うほどしっかりしたものではなく、複雑に枝分かれする尾根筋を追うのは難しかった。左側にある槇ノ沢・八百谷出合の約70M下流の左岸に出合う窪に沿うようにルートを取り、小尾根が痩せ細り急になると、その窪の右岸支窪に下った。かなり急ではあるがうまく礫が詰まって安定し、歩きやすかった。右岸支窪を少し下って急になるとその支窪の左岸の細い尾根の踏跡を下り、右岸支窪が主窪に合流する直前でその右岸に渡った。槇ノ沢の流れが10M程下にまで近づいていた。
 小さな踏跡で槇ノ沢左岸の高みを水平に移動した。残置ワイヤーや落下桟橋跡らしき残骸を見て、八百谷が分かれる二股付近で急に道型が明瞭になり、足をかけると今にも落ちそうな槇ノ沢を渡る丸木橋を迎えた。目の前の上流側に数Mの滝が落ち、橋からの眺めは迫力がありそうだが、とても渡る気にはなれない。滝のさらに上流まで土の斜面をへつり、最後は露岩の上を立木を使って下降、靴を濡らさぬよう石を伝って右岸のミョウキ尾根末端に渡った。橋の袂に小広いスペースがあった。
 立ち塞がる土壁となったミョウキ尾根末端に道型の続きを探すも見つからず、適当に登り出すとやや八百谷側を九十九折れを交えて登る弱い踏跡が見つかった。酷く荒廃してはいるが、ジグザグに尾根に絡む道の作りは林道的であった。岩稜が続く尾根の傾斜が緩む1230M圏で、踏跡は一時的に尾根に乗った。太い釘を打ち付けた桟橋の残骸が幾つも見られ、林道であることが確認された。岩稜をむりやり桟橋を渡して突破する方式は破風山林道と同じで、昭和三十年代に開設された林道に見られるものだ。暫く古い桟橋を見ながら尾根上を進んだ。谷に迫り出した桟道、太い立木に打ち付けた釘など、古林道の痕跡が豊富だった。左右に谷の轟音が響くあたり、右奥にちょうどミョウキ岩が頭を覗かすピンポイントの地点があった。深い谷間に潜むこの岩は、林道から見える地点は本当に少ない。1260M圏で尾根が急になり岩稜が立ちはだかると、道は左へ巻いて逃げた。八百谷の滝が意外と近くに見えていた。大木の切り株があちこちにあり、この二次林の貧相な森のかつての雄姿が想像される。露岩混じりの崩壊を下巻いてかわし、時々見られる桟道の残骸を見ながら、八百谷側を折り返しつつ絡んで登った。どこでも歩ける穏やかな斜面なので踏跡が分散して弱まり、道型不明になっていた。尾根の腹をどんどん登り、1430M圏で行きに初めてミョウキ尾根に出た地点に戻った。
 ここから荷物をデポした地点までは行きと同ルートなので、詳細を省略する。踏跡が非常に弱く、地形特徴が弱いデポ地点と完全に同一地点に戻ることができなかった。周囲の大きな地形から凡その位置を特定するのは容易だったが、実際に荷物を発見するまで十分ほどかかってしまった。
 踏跡を数十米進むと、八百谷の左岸に1310M圏で出合う薙で道が消えた。薙ぎの向こう、谷沿いと探すが踏跡の続きは見えなかった。国有林図ではこの付近で八百谷へ下り、右岸の高みを行くように描かれている。そこで薙を真っ直ぐ下り、谷に降り立った。この地点は右岸の大崩壊のほぼ正面、厳密には20Mほど上流側で、白く崩れた山肌が大迫力でなだれ込んでいた。左岸は傾斜がきついが、右岸は容易にトラバース出来そうに見えた。流失したであろうか、道型は全く見えなかった。遡行のように右岸を進み、唯一の滝は林道歩きということで無理にへつらず高巻いた。やがて見覚えある右岸の大きな礫崩壊と小屋跡の緑のポリ波板が見えてきた。小屋周辺は早春に来た前回とは違って緑に包まれ、一方積雪に隠されていた小屋の残骸と大量のゴミとが露出していた。幾つもあったビールケースの一つに腰掛けて休憩した。

 

⌚ฺ  八百谷出合への下降点-(15分)-八百谷出合-(45分)-八百谷作業小屋跡 [2015.10.10]

● 八百谷作業小屋跡~ミョウキ尾根(1690M圏)

 今年のこの時期、八百谷も大部分が雪渓に覆われていたが、小屋跡前だけは流れが見えていた。対岸に直ぐ道が見つかったが、多数の踏跡ばらけている。下流側の比較的大きな支尾根を目指すように、折り返しながら高度を上げる。枝尾根を登りながらトラバースし、小崩壊に出会うと上から巻いて通過する。
 支尾根の一つに乗ると、向うは一面のカラマツ植林となる。尾根に絡むように、時には小さな電光型を交え、安定した道を登っていく。しばしば作業踏跡が交錯し、残置ワイヤー、古い「作業中」の看板がなど見られる典型的な植林地だ。
 尾根がやや広くなると、作業道に加え荒れた植林地に笹ヤブが現れ、分かりにくくなる。残雪が現れ、道の不明さに輪をかける。
 地形的にミョウキ尾根に乗ったな、と思えたころ、腰までの笹の道に見覚えのある雰囲気を感じた。2年前に作業道から登ってきた地点である。何の目印もないが、迷いながら苦労して登り着いた地点を見紛うことはない。
 しばしミョウキ尾根を登る。尾根のやや右寄りの笹を掻き分け数十メートル進み、やや斜度のある部分で再び尾根に乗って直登するあたりに、笹の中の道に沿うように半ば埋まったワイヤーが落ちている。一昨年と全く同じであることを確認する。この辺りは比較的歩きやすい。
 1660M圏(1656M独標の少し上)に、ワイヤーを巻いた大木の切株がある開けた場所がある。岩混じりの痩せ気味の尾根は、通過に苦労するほどヤブが酷い。1690M圏の露岩上は展望が開ける良い休憩地だ。この間、右の槙ノ沢側はずっとカラマツ植林になっている。

 

⌚ฺ  八百谷作業小屋跡-(1時間5分)-ミョウキ尾根(1690M圏) [2014.4.19]

● [逆行区間]仙波ノタル~ミョウキ尾根(1690M圏)

 仙波ノタルは、道標もなく意味ありげな棒が立っているだけの笹のタルミなので、山ノ神土から地形を正確に把握しながら進んで判断した。大洞林道支線が右に分かれていたが、左に下る国有林作業道の踏跡は見えなかった。しかし笹原に飛び込んで見当をつけて進むと、すぐカラマツ植林中に踏跡が見えてきた。
 始めは安定した踏跡で植林を斜めに下ったが、徐々に不明瞭になり複数に分散した。時々通る天然の針葉樹林では明瞭になった。植林中で道が荒れて不明になり探したが、その部分で割と急めに下っていた道を下方に発見した。
 露岩が出てきて植林が切れると道は不明瞭になったが、岩の根を通って下り、安定した古い崩壊跡を通過して進んだ。針葉樹の多い自然林を倒木かわすうち、道は水平になって枯死笹ヤブと倒木を跨いで進んだ。ワイヤーの残骸が、伐採盛んなりし頃を思い起こさせた。緑の山肌に深い崩壊の爪痕が何本も刻まれた唐松尾山が間近に見えた。
 ミョウキ尾根から西に出る支尾根の1770M圏肩を通過した。傾斜の緩い尾根筋は不自然に開けており、伐採時の作業場跡なのかもしれない。尾根通しに明瞭な踏跡があり、上から来るのがバラトヤ林道かも知れない。バラトヤ林道のこの辺の正確な道筋が不明なのだが、ミョウキ尾根からここまで下ってきて、ここからは今行く道筋と等しくなるというのが推定ルートの一つである。この支尾根をさらに下っているのは、森林基本図によると萩止ノ沢にまっすぐ降りる作業道だ。
 再びカラマツ植林の良道となって一下りし、水平に近い緩い下りになると、不明瞭になった。植林下の低い笹原の分散した踏跡を拾いながら進んで、1710M圏でミョウキ尾根に出た。この付近は全般に踏跡不明瞭で、今来た作業道もバラトヤ林道も道筋がはっきりしないが、この作業道の方がやや明瞭であった。
 この付近のミョウキ尾根は岩勝ちで痩せており、灌木と枯死笹ヤブに覆われた尾根の左を絡んで下っていた。少し下の1690M圏に好展望の露岩があり、通るたびに必ず立ち寄る絶好の休場になっている。この日は快晴で、滝川谷に順番に並ぶ、雁坂みちの尾根、黒岩尾根、通り尾根、唐松尾北尾根の様子がはっきりと見えた。
 さらに枯死笹ヤブを分け下って、1660M圏で尾根が平坦になった。下り傾斜が平坦になったすぐの位置で、注意深く見ると左のカラマツ植林に分け下る踏跡が見えた。尾根通しの明瞭な作業道のため、単なる植林時の作業痕跡ほどにしか思えないが、これがバラトヤ林道である。

 

⌚ฺ  仙波ノタル-(35分)-ミョウキ尾根(1690M圏) [2015.4.29]

【林道途中へのアクセスルート】(確認済みのもの)

  • 唐松尾北尾根(槇ノ沢出合に落ちる尾根)の踏跡
  • ミョウキ尾根の踏跡(1690M圏付近)

 

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植林が終わり薄い踏跡が見え出す
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大トコノ窪
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ヒルノ沢
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笹ヤブの曖昧な水平踏跡
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この急な窪から槇ノ沢へ下った
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八百谷出合すぐ上の槇ノ沢を渡る木橋
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高さがある上腐っていて足を置くと揺れる
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槇ノ沢左岸に林道の道型が見えるが…
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実際には完全な廃道
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林道が下ってきた小窪から槇ノ沢左岸に
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1300M付近の槇ノ沢左岸を水平に来た林道
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林道が小尾根へと下り始める
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ミョウキ尾根下部は桟橋の連続
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空中に突き出た廃桟橋
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ピンポイントでミョウキ岩が覗いた
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桟橋の残骸は道しるべとして有難い
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穏やかになった八百谷を短区間だが遡る
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骨組みのまま潰れた八百谷作業小屋の残骸
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沢沿いにあるこの波板の一段上が小屋跡
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カラマツ植林地の「作業中」看板
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比較的歩きやすい尾根道
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バラトヤ林道と合流してからはヤブが煩い
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歩道に並行するワイヤーが良い目印
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細い金属柱が目印の仙波ノタル
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カラマツ植林の作業道を下る
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岩の基部を通過
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ミョウキ尾根が近づくと笹原で不明瞭に
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ミョウキ尾根1690M圏の好展望の露岩