大丸戸尾根道 【仕事径】

 石楠花新道の御止木(ゴトメキ)から大丸戸尾根を下って柳平に至る伐採作業道。もともとは登山コースだったらしいが、昭和の大伐採の結果、跡地に生えた二次林と笹原を見ながらののどかな展望コースとなっている。しかし作業道が入り組み、道が不明のため、正確な読図が要求される。

● 御止木分岐~大烏山分岐

 石楠花新道の2230M圏小ピークのカラマツの植林に囲まれた僅かな空地に「ゴトメキ分岐点」の道標がある。黒金山、白檜平、遠見山の三叉路であり、石楠花新道が直角に曲がる地点である。遠見山方向に直進して軽く登ると、ゴトメキ(御止木)だ。山名表示がなく、単なる通過点であるかのように、ゴトメキ分岐と遠見山との二方向を指す新し目の道標がある。
 後止木(江戸時代の伐採禁止木)一帯が丸坊主にされ、カラマツが植林されているとは、矛盾に満ちた光景だ。山頂はうっそうとはしてなく明るいが、周囲の木々のため展望がよいわけでもない。カラマツなどの造林地の真っ只中にあり、放置されたワイヤーだの多数の踏跡などで、まったく山らしい風情のない場所だ。
 ゴトメキ分岐点から遠見山にかけてのカラマツの植林帯は、地形的に尾根筋がはっきりしないこともあり、公園の林のような感じだった。つまり、疎らな雑木の間をどこでも自由に歩ける感じであり、踏跡も分散している。道がはっきりしないというよりむしろ、通行者の全員が同じところを歩く「道」というシステムが成立していないといった感じだ。少しでも頭を使わず楽に歩こうとして比較的良い踏跡を探す作業と、とりあえず沢山の踏跡のうちたまたま見つけた一つを利用すればいいじゃないかという方法とに葛藤しながらの歩行となる。
 次の2230M圏峰との鞍部は、伐採後放置されたため結果的に開放的な笹原になっている。また2230M圏峰と遠見山との鞍部は、おそらく天然の明るく雰囲気の良い笹原だ。
 遠見山は、密生したシラベか何かの植林の中にある。展望がないのはもちろんだが、圧迫される雰囲気で、立ち止まる気すら起きないような場所だ。黒金山以来の、小さな山名表示板がある。木に打ち付けた「遠見山」の表示と、地面に置かれた「上遠見」とがある。現在は遠見山と呼ばれているが、古い地図では南西の2200M圏小ピークは下遠見とされており、ここは昔は上遠見と呼ばれていたのだろう。山名も時代と共に変わるのだろうか。
 遠見山から先の道は石楠花新道と同じ雰囲気で、天然のシラベ、または植林のカラマツの下の笹原と倒木の道になる。2200M圏の小ピーク(下遠見)の南をトラバース気味に通過すると、こんな山の中としては場違いな、小型の家庭用物置が置いてある。造林用の作業道具入れだろうか。2150M付近の緩い傾斜地は広大な笹原で、山頂がいまひとつなこのコースのハイライトで、ランチを兼ねて思わず長居をしてしまった。
 膝までの笹原の踏跡は尾根の東南側をトラバースし続け、2080M付近で突然南方向に尾根を外れて下り出し、直進する大遠見尾根を見送る。バラけた踏跡は大遠見尾根と南の烏ノ尾根の両方向についており、これに作業道か何かの斜めの踏跡も交錯し、笹原の中にいくつもの筋が見える。柳平に下ろうと思っていたが、御止木の道標は遠見山・大烏山を指示していて烏ノ尾根がメインルートとも思われ、大遠見尾根分岐に全くマーキングがないことから分岐点と認識されていないと捉え、迷った上、烏ノ尾根の踏跡に入った。
 2050M付近は笹が腰上から胸まで達し歩きにくい。2020M圏の尾根が平らになる地点に道標があり、柳平への下山道を示していた。

 

⌚ฺ  御止木-(35分)-大烏山分岐 [2009.9.26]

● 大烏山分岐~鳥居峠

 烏ノ尾根の途中から分かれて再び大丸戸尾根に乗り直すこの道は、後で調べた分かったのだが、原全教の昭和17年発行の案内書「奥秩父」の付図「長城と宿屋」に記入されている由緒ある(?)道であった。鳥居峠を経由し、琴川の川面に降り立ち杣口へ続くその道は、何も知らずに今回辿ったルートと結果的にほぼ同じであった。いつの時代にも人間の考えることは同じようだ。
 きれいなシラベ林のなかの膝までの一面の笹原を、西南西にほぼ一直線に下っていく。笹に覆われた細い踏跡だがしっかりしている。同様の作業道が何本も分岐するので、目的地が明確でないとルートを保つのは難しいが、あいにくこの道がどこを通って下山するのか分からない。方向からして大遠見尾根に乗ると予想し進んだが正解だったようだ。
 1920Mあたりでこの付近を通過する余沢林道が見えてくると、そそくさとそれに向かう踏跡に入り林道に出てしまったが、西に林道を少し下るとゴトメキを示す道標があった。林道は1930M圏峰をぐるりと300度くらい回るように進むが、その1930M圏峰の北東鞍部に南から取り付く地点が道標地点だ。金属製の道標は、わざと折り曲げられて見えにくくなっていた。
 数十メートル進んだ1930M圏峰の真南に、道標はないが下り口らしきピンクテープがあった。それに入ると、トラバース気味に進みながら南に向かう尾根に乗った。この付近尾根筋が複雑なため、ルートがどこを走っているか見当がつかない。樹林帯の中の膝から腰の笹原を進むが、笹が切れた平地のあたりでピンクテープは消えた(または見失った)。先の余沢林道下り口から柳平の杣口・塩平・大弛峠T字路へ向尾根が大遠見尾根の本筋であり、道がそこを通っていると仮定して進んでいく。
 細いながらしっかりしていた踏跡を、1830M付近の急傾斜で不明瞭になり失ったので、笹が薄く歩きやすい植林地を真っ直ぐ(トラバースせず斜面対しできるだけ垂直に)下ると、恐らく1750M付近で左右に横切る作業用踏跡が見つかった。偵察すると、右は沢で行き止まりになっているようだったので左に進むと、大遠見尾根の西側を緩く下っていく。この細いが確実な一本道に手ごたえを感じて進んだ。
 道はいくつかの作業道を合わせながら進み、やがて尾根筋に乗るが、完全に尾根上を通らないのがもどかしい感じだ。緩やかな大遠見尾根が急に落ち込む1660M付近のカラマツのうっとおしい低木帯で踏跡が乱れるので、尾根を乗り越して尾根の南東側の旧金峰牧場の草地に入る。牧場は廃業し有刺鉄線は切れており、牧草地は明るい草地になっている。
 踏跡はないが、カラマツの間を潜って歩くよりは気持ちよい。牧場管理に使われたであろう廃林道(地形図にも載っている)に出たら、柳平集落による必要はないのでショートカットして南に下り、1490Mの鳥居峠に降り立つ。柳平のすぐ南の杣口からの道が乗り越す地点で、観光用の琴川ダムの展望台がある。

 

⌚ฺ  大烏山分岐-(1時間5分)-鳥居峠 [2009.9.26]
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石楠花新道の御止木分岐
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伐採で荒れた御止木山頂
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2200Mを越す山稜も伐り荒らしが酷い
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上遠見の異称を示す古表示
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明るい笹原では道が不明瞭に
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柳平への分岐道標を見逃さずチェック
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車道を横切る箇所の撹乱で方向を失う
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琴川ダムを見て柳平集落へと牧場跡を下る