会所越(通称コレイ峠) page 5 【廃径】

● 高二八〇図根点北西尾根~神流川線七号鉄塔東鞍部

 奥三川は古くは板小屋とも呼ばれていた一三〇〇米圏にある三川最奥の耕地で、三川源流へ向かう森林軌道の起点であったが、廃村になって久この小尾根の下部は岩混じりの急稜になっていて、物引沢の緩斜面へと、幾つかの不明瞭な踏跡が下っていた。峠道を特定するのは難しいが、緩やかに無理なく付けられた道筋と考えれば、まず一一九〇米付近で小尾根を水平に回り込み、窪内部の崩礫で荒れた伐採跡の二次林を折り返しを交えて下り、次いでトラバース気味に、崩礫とヤブやツル草で荒廃した一一三〇米圏の下るのが正道であろう。この辺りは、岩場や露岩の間に、根付きの悪い痩せたカラマツ植林と伐採跡の崩礫地の急斜面が交互に現われ、道の痕跡が殆んど見られぬ始末の悪い一帯だった。
 露岩帯下を水平に抜け、不明瞭な礫上の痕跡を行くと、一三三〇米圏峰の大きな西南西尾根を回った。倒木で荒れた水平道の残骸が続いたが、直後に小岩稜を越して道が消滅した。弱い痕跡が電光型で約三〇米を下り、一度水平になった。この小岩稜の下部も顕著な岩稜で、逆から来ると迷い込んで動きが取れなくなるところだ。辛うじて続く弱い踏跡は、すぐまた次の、地形図に見えない小稜の岩の突起に挟まれた鞍部状を越えた。
 断続的なトレースは小尾根を一つ回り、切株の多い二次林を通過した。次の露岩のある窪状で礫に流され不明になったが、露岩を上下のどちらからもかわす痕跡が見られた。二次林同然の植林されたカラマツの痩せた疎林に入り、少しの間悪くない踏跡が水平道が続いた。
 一三三〇米圏峰の西北西尾根を、一一六〇米圏の平らな部分で乗越した。尾根には見事なモミが生え揃い、台地状に迫り出した明るい地点であった。微かで不明瞭な痕跡があいまいなまま水平に並走し、あいまいに水平移動した。伐採地に点在する多くの露岩がルーティングを難しくしており、出鱈目な移動なら難しくないが、正道の判断が極度に困難で、ただひたすら二次林上端に沿って険しい斜面のトラバースを続けた。物引沢右股の緩いガレ窪に入り、極度に低密度のカラマツ植林に入ってなお緩く下った。
 一三三〇米圏峰北東尾根の巨大な岩壁下を、久々に道型的な雰囲気を感じながら通過した。地形図に現われていないが、品塩山南峰(一二八二独標)下を通過するこの付近には露岩帯が頻発していた。カラマツの小規模植林、微小尾根と過ぎ、赤ペンキの木を見て、岩稜を下ってかわし登り返した。辺りの峠道はほぼ失われているように見え、踏跡や作業道もなく、上から来る岩地と下の伐採地の僅かな隙間を辿って進んだ。薄い赤ペンキの木がある微小尾根を回り、次の岩稜はうまく水平に抜けた。
 品塩山近くの神流川線六号鉄塔南の一二七〇米圏岩峰から来る厳しい岩尾根を避けて窪状を下り、登り返した。稀に峠道の道型が見られたが、大部分が伐採と植林により消滅しており、水平にだけ気をつけて様子を見て進んだ品塩山直下の急斜面と植林地や伐採跡の二次林との間の、断続的な薄い踏跡を進んだ。品塩山北峰から出る窪の左岸の大岩上を越えると少し下り、不明瞭な踏跡で窪を回った。上から降りてきた露岩の下を通過し、地形を見ながら勘を働かせ、とにかく水平に進んだ
 物引沢左股の右岸に入るとヒノキ植林となり、峠道とは明らかに違い小刻みに上下する作業踏跡が現れた。踏跡は高度差五〇米ほどを急に下って、また水平になった。植林中には各方向に様々な踏跡が見られたが、そのまま水平に進んで、品塩山北峰(一二八〇米圏)西尾根を一一〇〇米圏鞍部で乗越した。西隣の丘の上に神流川線七号鉄塔が見え、尾根上には車道(中ノ沢林道)から品塩山の五号、六号鉄塔へ向かう電源巡視道が通り、ひしゃげた黄標柱が立っていた。

 

 

⌚ฺ  高二八〇図根点北西尾根-(←1時間45分:逆行区間)-神流川線7号鉄塔東一一〇〇米圏鞍部 [2016.10.10]]

● 神流川線七号鉄塔東鞍部~中之沢

 

 尾根北側の国有林には伐採が入っておらず、鞍部からは気持ちよい自然林の細い水平踏跡が続いた。そして地図に載らない微小岩稜の下部を過ぎると、品塩山北峰の北北西尾根の一一五〇米圏まで電光型を交えて急登した。この辺りが、峠道の道筋でもっとも不可解な部分であった。物引沢源頭の一四四〇米圏付近で見た峠道の道型の断片は、この尾根の先で再び現れた。途中のヒノキ植林や自然林の区間で明瞭な道型が見られなかったのは、造林作業や崩土で消えたためとも思えるが、いったん高度を数十米も落とすことに不自然さも感じられる。品塩山北峰西尾根の一一五〇米前後に水平道を見つけられなかったこと、品塩山北峰北北西尾根の西側は露岩を含む急斜面であることを考えると、峠道は難所を避けていったん下っていたとしても不思議はない。現地の地形を見れば分かることだが、品塩山の周囲、特に北半分は登山道ならともかく馬道としては厳しい急壁が続くのである。
 上から来る岩稜の下限を繋ぐ様に、道は露岩の多い山腹を少しずつ高度を上げながらトラバースしていた。複数に分かれる不安定な踏跡だったが、岩地があると通過場所が固定され一本に集約された。そのまま水平に進むと道は次第に古道らしい道型を取り戻し、一二〇四独標の一一七〇米圏南鞍部で品塩山の尾根に出た。一般に歩かれる尾根の登山道から見ると、多少ヤブっぽく不明瞭ではあるが、気をつけていれば分かるはずだ。
 やや明瞭になった古道は再び水平に巻き始め、古い赤テープが付いた独標東尾根を回る所では特に明瞭になった。地形図の破線記号通りの一一五〇米圏地点で、道はまた尾根に出て、尾根の踏跡との分岐には白テープが落ちていた。ここから道は尾根上を辿る様になった。この尾根は国有林と民有林の境界であり、点々と打たれたコンクリの境界標を見ながら凹凸の多い岩勝ちな尾根んだ。どうみても馬道とは思えないが、消えてしまった古道は尾根直下をトラバースしていたと見るのが自然であろう。前橋営林局の境界見出し標、赤テープが見られ、稜線の道はある程度踏まれていた。尾根道からは、会所~弥次ノ平~ツギノスにかけての上信国境が垣間見えていた。
 一一二一独標で安曇幹線二号線二〇七号鉄塔への道を分けると、地形図破線通りに東へ出る尾根に入った。両側が民有林となって踏跡は弱くなった。独標の東を巻く、歩くには及ばぬほどの微かな痕跡が認められ、古道はここを巻いていたと思われたが、頁岩を主体とする秩父帯両神層の土質は崩れやすく、トラバースは滑落の危険があるので、やむを得ず稜線の踏跡を辿った。百数十米先で右側がヒノキ植林となったので調べると、山腹に急に巻道が現れていたので、これが古道の断片なのかも知れない。この道は一〇五〇米圏の尾根が平らになる部分で尾根に乗り、安曇幹線二号線二〇八号鉄塔まで続いていた。
 峠道は右手のヒノキ植林の急斜面を引矢倉沢へと下っているはずだが、伐採・植林に伴う変化に加え、間伐材の散乱が酷く、そのためか鉄塔から下る巡視道も認められなかった。仕方なく小尾根や小窪が入り組む複雑な地形の植林中を適当に抜け、最後は作業踏跡を繋いで八四〇米圏二股付近に下った。沢は涸れていて、近くに炭焼窯の跡が見られた。
 沢沿いを行く植林中の乱れがちな踏跡を二百米ほど下ると、二〇八・二〇九号への巡視道を示す東京電力の黄標柱が現れた。作業踏跡が入り組むスギ植林の断続的な作業道を進むと、二〇九号を示す黄標柱が何度か現れ、Z字に折れて下った。この部分は馬道の断片としても、植林作業道に置き換わった部分も多い様に思えた。マーキングされた左岸の作業道でスギ植林を下り、再び馬道らしい丁寧な造りの道になると右岸に渡り、砂防指定地の標柱やかつて何かが建っていたであろう敷地の石垣を見て、中ノ沢に降り立った。対岸の集落への橋はなく、適当に渡渉して数軒の民家の間を縫うように車道に上がった。

 

⌚ฺ  神流川線7号鉄塔東一一〇〇米圏鞍部-(←20分:逆行区間)-一二〇四独標南鞍部-(←20分:逆行区間)-一一二一独標-(←55分:逆行区間)-中之沢 [2016.3.29]

 

【林道途中へのアクセスルート】(確認済みのもの)

  • 中之沢または本谷から車道(中之沢林道、同支線)を辿り、高二八〇図根点(物引沢源頭一三六〇米圏峰)北東尾根の踏跡を下降
  • 中之沢から車道(中之沢林道)を辿り、品塩山北峰西尾根の電源巡視道で神流川線七号東鞍部に至る

 

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踏跡は岩稜の隙間を縫って乗越している
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1330M圏峰西南西尾根近くの微
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道筋はたびたび大岩に責められ翻弄される
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露岩脇を通るとき馬道が一瞬見えた
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1330M圏峰西北西尾根の平らな部分を越す
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二次林が優占するカラマツ植林を行く痕跡
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踏跡すら消えてしまった部分も多い
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岩の根を繋いで通る馬道跡
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品塩山から降りてくる岩壁
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道筋を示すらしい立木の幹の赤ペンキ
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時々薄い馬道の道型が認識できる
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やっと判別できる程度の薄い道型
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品塩山北峰西尾根のひしゃげた黄標柱
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岩稜を避けてきた道はこの下を急登
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品塩山の尾根が近づき明瞭になる
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1204独標を明瞭な踏跡で巻く
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安曇幹線2号線208号鉄塔の手前
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引矢倉沢左岸の植林を行く道
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中之沢集落対岸の取付き