会所越(通称コレイ峠) page 3 【廃径】

● 会所~車道(中ノ沢林道)横断点

 会所近辺の上州側は元の馬道が枯死笹ヤブに埋もれ、新たな踏跡が入れ乱れ混沌としていた。細い踏跡は次第に水平に行く明瞭な道型になった。会所から約三百米進むと道型は古い崩壊で流失し、不明瞭になった。水平かやや登り気味の細く明瞭な踏跡があるので入りたくなるが、これは釜ヶ沢左岸尾根への踏跡である。消えた峠道の経路を推測しながら百米ほど進むと、道型が回復した。先の尾根へ向かう踏跡は此処を回避するものらしいが、峠道に戻る地点の判断が難しい。
 しばらくは幅のある馬道の道型が比較的残り、多少不明瞭ながらも、美しい広葉樹の緩く快適な下りが続いた。下向きに俯瞰すると尾根の右に絡んで緩く真っ直ぐ下る道型が見えるのだが、登り方向でははっきり分からず、現時点ではこの道は登りには適さなくなっていた。途中、下からたびたび踏跡が合流した。登りではつい道を外してしまい、その都度正道に復帰するためにできた踏跡であろう。一五八〇米付近は枯死笹ヤブの勢いが強く、折り拓きながら進んだ。尾根筋や山腹に幾つもの痕跡が出来ているので、昨今厳密に峠道を辿ろうとする者はいないようだ。数分の激しい枯死笹ヤブを抜けても、しばらくヤブ勝ちな道が続いた。地形図破線の大まかな経路は正しかったが、細部は異なっていた。時に消滅する馬道の道型をあくまでも丁寧に追った。
 尾根が一五七〇米となる辺りで、初めてほぼ尾根筋に出た。倒木の荒れた斜面で道型が薄くなったが、仄かに九十九折で下る雰囲気が感じられた。三十米ほど高度を下げると再び道型が現れた。すぐに最初のカラマツ植林が現れ、釜ヶ沢の沢音が耳に入り始めた。迫り出した巨岩下の二、三名は入れそうな岩屋状を左に見た。所々で道型の流失はあるも、少なくとも踏跡は明瞭に続いていた。
 尾根が一四七〇米圏で緩む辺りで再び尾根筋に接近し、急に踏跡が曖昧になった。折り返し下る薄い痕跡が見えたので、電光型に下るようだった。明滅する道型の残骸を拾いながら五〇米ほど高度を落とすと、再び緩い下りのトラバースとなった。この地点、登りでは薄い痕跡を追って急に折り返すので道を失いやすい。すぐ先で斜めに横切って垂れた造林ワイヤーを腰を屈めて潜った。見上げると、今電光型に下った近くに大岩があり、道はこれを避けて急降下したのだろう。
 砂岩混じりの硬めの土になって踏跡がやや安定し、カラマツ植林の上端を通った。ここからすっかり植林地に入り、ツル草や崩壊で山腹が荒れてきた。峠道は不明になり、頼りない様々な作業踏跡の中からましなものを選んで行くしかなかった。一三八〇米圏の尾根平坦部直下で古いマーキングテープを見た後、伐採後の二次林らしき自然林を、潅木を避けつつ水平に辿った。一三六〇米圏の痩せた平らな部分で一時尾根に乗った時、石仏沢側に車道(中ノ沢林道)が見えた。再びカラマツ植林に入り、一三六二独標手前鞍部の南斜面で、なお尾根に絡む踏跡を捨て、比較的有力そうな踏跡を捉えて斜め一直線に下った。最後は小尾根に乗って車道(中ノ沢林道)の小さなカーブの地点に飛び出した。現在の地形図破線が車道を横切る場所の、数十米南西の地点であった。

 

 

⌚ฺ  会所-(1時間15分)-車道(中ノ沢林道)横断点 [2016.9.25]

● 車道(中ノ沢林道)横断点~大橋場

 伐採・植林と車道造成とで、車道横断点付近に峠道の道型は全く残っておらず、下降するルートを確定するのはひと苦労だった。捜索の結果、標高約一二七五米(基盤地図情報、標高10mメッシュ)の車道横断点から、そこまで下ってきた小尾根をさらに約四〇米下った一二三五米付近で、ようやく峠道の道型を発見した。その間の峠道は消滅し、車道造成後のものと思しき断続的な薄い踏跡が見られるだけだった。地形や踏跡の様子からして、旧来の馬道はその小尾根の西斜面か西側の小沢をトラバースしたり折り返したりして付けられていたと思われたが、確証は得られなかった。
 不思議なことに一二三五米付近の小尾根を回る地点で忽然と現われた明瞭な道型は、釜ヶ沢左岸の山腹を斜めに下って、廃棄された青い五ガロン缶の脇を通った。さらに小さな緑のビニール袋の落し物を見ると、崩壊して痕跡程度になった二度の大きなZ字型を下って、麗しい清流を見下ろすやや高くなった小広い河岸に立った。豊かな広葉樹の下で、馬道が一段下がった水流を渡るべき場所を捜索し、僅か下流側にそれを見出した。古の橋はとうに流失し跡型もなかったが、対岸にはそれらしき道の形跡も認められた。この渡り場を、鈴野藤夫は大橋場と呼んだ[32]。この先中之沢までかつての馬道が続くとも述べており、これらの情報は地元中之沢で得たものなのかも知れない。くるぶし程度の浅瀬で流れを渡った。

 

⌚ฺ  車道(中ノ沢林道)横断点-(20分)-大橋場 [2016.9.25]

【林道途中へのアクセスルート】(確認済みのもの)

  • 中之沢から中ノ沢林道

 

160925_p32.jpg
会所からの上州の峠道
160925_p30.jpg
会所の300Mほど手前で道は荒廃
160925_p29.jpg
樹木がない部分が馬道跡
160925_p06.jpg
道は岩屋状の脇を通過する
160925_p07.jpg
良い目印の道を横切るワイヤー
160925_p28.jpg
1380M圏の尾根平坦部の道とマーキング
160925_p08.jpg
車道からの板小屋日向への取付き
160925_p27.jpg
車道直下の釜ヶ沢左岸で道はほぼ流失
160925_p09.jpg
1230M付近で道型を再発見した
160925_p10.jpg
再発見地点の朽ちた青い5ガロン缶
160925_p11.jpg
釜ヶ沢左岸の河畔林
160925_p12.jpg
豊かな釜ヶ沢の清流
160925_p13.jpg
大橋場は浅瀬で渡渉が容易